スーパーの鮮魚コーナーに並ぶ、たくさんの魚たち。
その中でも、切り身でよく見かける「タラ」ですが、いざ買おうとすると「これってどっちを買えばいいんだろう?」と迷ってしまうこと、ありませんか。
値段を見るとずいぶん違うし、栄養やカロリーはどう違うのか、どんなレシピに合うのかなど、疑問が次々と湧いてくるかもしれません。
同じ名前が付いているから親戚みたいなものだろう、と思いがちですが、実はこの二つ、まったく別の魚なんです。
毎日の献立を考える中で、せっかくなら一番美味しい食べ方で味わいたいですよね。
この記事では、魚に少しばかり興味がある私が、売り場での確実な見分け方から、驚きの成分の違い、そして今夜のおかずにすぐ使える最高の調理法まで、たっぷりとご紹介します。
これさえ読めば、もう売り場でお買い物中にスマホで検索して迷うことはなくなります。
この記事で分かること
銀鱈と真鱈の生物学的な根本的な違い
スーパーの売り場ですぐに見分けられる外見や切り身の特徴
脂質量やカロリーなど栄養成分の驚くべき差
それぞれの魚の持ち味を最大限に引き出す最適な調理法
鮮魚のプロが教える銀鱈と真鱈の違い
ここからは、名前は似ているのに実はまったくの別物である、銀鱈と真鱈の決定的な違いについて掘り下げていきます。売り場に並ぶ切り身からは想像もつかない、海の中での生態や、歴史的な背景など、知れば知るほど面白い魚の世界へご案内しますよ。
そもそも銀鱈と真鱈は全くの別種

「名前にタラって付いているんだから、親戚みたいなものでしょ?」
そう思うのが普通ですよね。私も最初は完全にそう信じ込んでいました。でも、魚の図鑑を眺めたり、あれこれ調べていくうちに、とんでもない事実に気づいてしまったんです。実は、銀鱈はタラの仲間ではありません。
| 比較項目 | 銀鱈(ギンダラ) | 真鱈(マダラ) |
|---|---|---|
| 生物学的分類 | カサゴ目 ギンダラ科 (※アイナメやホッケの仲間) | タラ目 タラ科 (※本来のタラの仲間) |
| 背びれの数 | 2つ | 3つ |
| 脂質量(100g中) | 約17.5g(超濃厚な脂) | 約0.2g(超低脂質) |
生物学的な分類をたどっていくと、一般的な「タラ」として私たちが認識している真鱈やスケトウダラは、「タラ目タラ科」という正真正銘のタラの一族です。
一方の銀鱈は、「カサゴ目ギンダラ科」に分類されます。当ブログのプロが教える日本の食用魚図鑑でもそれぞれの生態をまとめていますが、銀鱈は分類学上、タラよりもアイナメやホッケといったお魚に近い、まったく別の系統の魚なんですよ。
生息している環境も大きく違います。真鱈も冷たい海を好みますが、銀鱈は北太平洋のカリフォルニアからアラスカにかけての、水深300メートルから600メートルという、深く冷たく、そして水圧の高い過酷な環境で暮らしています。この「深海の底の方で生活している」という生態が、後でお話しする「とんでもない脂の乗り」を生み出す秘密になっています。
たまたま見た目や雰囲気が少し似ていたから「銀色のタラ」という名前が付けられただけで、人間で言えば「たまたま名字が同じだっただけの、まったくの赤の他人」というわけです。なんだかちょっと騙されたような気分になりますよね。
売り場で迷わない確実な見分け方
では、スーパーの売り場でこの二つの「赤の他人」をどう見分ければいいのでしょうか。
切り身になってパックに入っていると、パッと見はどちらも白い身をしていて同じように見えるかもしれません。でも、ポイントさえ押さえておけば、誰でも簡単に見分けることができますよ。
一番確実なのは皮の色を見ることです。
銀鱈は「銀」という名前が付いていますが、実際の皮はかなり黒っぽい色をしています。英語では「Black Cod(ブラックコッド=黒いタラ)」と呼ばれるくらい、皮が黒いのが特徴です。ウロコも細かく、全体的にダークな色合いをしています。
対して真鱈の皮は、茶褐色や灰褐色のベースに、その名の通り「まだら模様(斑紋)」が入っています。
また、身の質感にも違いがあります。真鱈は水分が多くて脂が少ないため、透き通るような綺麗な白身をしています。一方、銀鱈は身と身の間にたっぷりと脂を含んでいるため、少し濁ったような、乳白色に近い色をしています。
丸ごと一匹の状態で見る機会は少ないかもしれませんが、もし見かけたら「背びれの数」に注目してみてください。真鱈は背びれが3つありますが、銀鱈は2つしかありません。これも、そもそも種類が違うという決定的な証拠ですね。
脂質はなんと真鱈の約八十八倍

さて、ここからが一番驚きのポイントかもしれません。見た目は似ていても、中身(栄養成分)はまったくの対極にあるんです。
まずは、以下の表を見てみてください。(出典:文部科学省『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』)
| 栄養成分(100gあたり) | 銀鱈(ギンダラ) | 真鱈(マダラ) |
|---|---|---|
| エネルギー(カロリー) | 約 220 kcal | 約 77 kcal |
| 水分 | 約 68.3 g | 約 80.4 g |
| 脂質 | 約 17.5 g | 約 0.2 g |
| たんぱく質 | 約 13.0 g | 約 18.1 g |
いかがですか?驚愕の数字ですよね。
真鱈の脂質が100g中わずか0.2gという「超低脂質・高タンパク」なアスリート向けの食材であるのに対し、銀鱈の脂質はなんと約17.5g。真鱈の約88倍もの脂を蓄えているんです。
なぜこんなに差が出るのでしょうか。それは先ほど触れた「生息環境」に理由があります。銀鱈は水深300m以上の深海で、水圧に耐えながら浮力を保ち、冷たい海でもエネルギーを維持するために、進化の過程で体内に大量の脂を蓄えるようになったと考えられています。
「え、そんなに脂が多いなら太っちゃうかも…」と心配になるかもしれませんが、安心してください。銀鱈の脂は、お肉の脂とは違います。
真鱈の代用魚から世界的な超高級魚へ
スーパーで銀鱈のパックを手に取って、「うわっ、結構高いな…」と棚に戻した経験はありませんか?
実は銀鱈、現在ではかなりの高級魚として扱われています。でも、昔からそうだったわけではないんです。この魚が歩んできた歴史を紐解くと、まるで映画のような大出世ストーリーが見えてきます。
何十年も前の日本の水産市場では、実は真鱈のほうが高価でした。真鱈は日本の食卓に欠かせない伝統的な魚でしたが、獲れる量が減って価格が高騰した時期があったんです。
そこで当時の水産業界の人たちが目をつけたのが、北太平洋でたくさん獲れて、しかも安かった「銀鱈」でした。見た目が白身で似ていることから、「真鱈の代用品」として日本に大量に輸入されるようになったんです。
つまり、最初は「安くてタラに似ているお買い得な魚」という立ち位置だったんですね。
しかし、時代が進むにつれて状況は一変します。
日本の料理人たちが、「この魚、脂がめちゃくちゃ乗っていて煮付けや西京漬けにすると最高に美味しいぞ!」と気づき始めました。さらに決定打となったのが、欧米での大流行です。
海外の有名な高級和食レストランで、銀鱈を味噌で漬け込んだ「Miso Black Cod(ミソ・ブラックコッド)」というメニューが提供されると、海外のセレブや美食家たちの間で爆発的なブームを巻き起こしました。
「世界中で食べたい人が増えた」+「資源を守るために漁獲量が厳しく制限されている」=価格の急騰。
かつて真鱈の代用品だった銀鱈は、その圧倒的な美味しさが世界に見つかってしまった結果、現在では真鱈をはるかに凌ぐ価格で取引される「超高級魚」へと大出世を遂げたのです。なんだか夢のある話ですよね。
銀ムツやメロと呼ばれる代替魚の存在

銀鱈の値段があまりにも高くなってしまったため、市場はまた新たな「代用品」を探すことになりました。歴史は繰り返すんですね。
そこで白羽の矢が立ったのが、南半球の深海に住むマジェランアイナメという魚です。
この魚も深海魚ゆえに脂がたっぷりと乗っており、加熱するとホロホロと崩れる身の質感が、銀鱈に驚くほど似ています。
スーパーや飲食店で、「メロ」や「銀ムツ」といった名前を見かけたことはありませんか?実はこれ、このマジェランアイナメのことなんです。
かつては銀鱈のイメージにあやかって「メロ鱈」なんて呼ばれることもあったそうです(現在は食品表示のルールが厳しくなり、正しい名称で表記されています)。

真鱈の代わりだった銀鱈が高級になり、今度は銀鱈の代わりにメロが登場する。魚の流通の歴史って、本当に知恵比べというか、少しでも美味しいものを食卓に届けようとする努力の連続で面白いなと思います。
料理に合わせた銀鱈と真鱈の違いと選び方
ここまで、両者の生い立ちや成分の違いについて語ってきましたが、私たちにとって一番重要なのは「じゃあ、どうやって食べれば一番美味しいの?」ということですよね。圧倒的な脂を持つ銀鱈と、水分が多くてさっぱりした真鱈。この成分の違いを理解すれば、料理の腕が劇的に上がりますよ。
脂の乗った銀鱈の煮付けは絶品

筋肉の隙間にたっぷりと脂(100g中17.5g!)を蓄えている銀鱈。熱を加えると、この極上の脂がとろけ出し、身全体に広がります。もう、想像しただけでお腹が空いてきますね。
この脂の旨みを一滴残らず味わい尽くし、かつ柔らかすぎる身を崩さずに仕上げる最高の調理法、それが「煮付け」です。
銀鱈の脂と、甘辛い醤油ベースの煮汁がお鍋の中で混ざり合う(乳化する)ことで、とろけるような至高の味わいが生まれます。私が家で作る時の、失敗しない黄金比の調味料バランスをご紹介します。
【家庭でできる!銀鱈の煮付け黄金比】
- 基本の割合 = 醤油 1 : みりん 1 : 砂糖 0.5
- お酒を入れる場合 = 醤油 2 : みりん 2 : お酒 1: 砂糖 1
美味しく作るための最大のコツは、火加減と時間です。
銀鱈は身がとても柔らかいので、グツグツと激しく煮立てると、お鍋の中でお湯の対流に巻き込まれて身がボロボロに崩れてしまいます。
まずは煮汁を沸騰させてから切り身を入れます。再び沸騰してアクを取ったら、すぐに弱火に落としてください。煮汁の表面が「コトコトと静かに泡立つ」くらいをキープするのがポイントです。
そして、長く煮すぎないこと!火を通しすぎると、せっかくの脂がお鍋の中に全部逃げ出してしまい、身がパサパサになってしまいます。
「中まで味が染み込まないんじゃ…」と心配無用です。魚の煮付けは、「火を止めて、冷めていく過程」で煮汁が身の奥へと吸い込まれていきます。少し早めに火を止めて、余熱で火を通しつつ、鍋のまま一度冷ます。食べる直前にサッと温め直す。これがプロ顔負けの煮付けを作る最大の秘密ですよ。
銀鱈の旨みを引き出す絶品西京焼き

銀鱈のもう一つの最強の食べ方が「西京焼き」です。
味噌のコクと銀鱈の脂の甘みが組み合わさった時の破壊力は、ご飯が何杯あっても足りないほどです。実はお店で買うと高い西京漬けも、自宅で意外と簡単に作れちゃいます。
【西京漬けの漬け床(黄金比)】
- 白味噌(西京味噌): 1
- 砂糖: 0.5
- みりん: 0.5
※これらをボウルでよく混ぜ合わせて、ペースト状にします。
水気をしっかり拭き取った銀鱈に、この漬け床をたっぷりと塗り、ラップで包んで冷蔵庫へ。おすすめの漬け込み時間は「約1日半(36時間)」です。
なぜ時間をかけるのかというと、味噌に含まれる酵素が、銀鱈のタンパク質をゆっくりと分解して旨み成分(アミノ酸)に変えてくれるからです。この生化学的なマジックによって、身はさらにしっとりし、魚本来の旨みが爆発的に増幅します。
焼く時の注意点はただ一つ、焦がさないことです。味噌と砂糖は本当に焦げやすいので、焼く前にはキッチンペーパーで表面の味噌を「これでもか!」というくらい綺麗に拭き取ってください(味は中まで染み込んでいるので大丈夫です)。
皮に浅く十字の切れ目を入れておくと、焼いた時に皮が縮んで身が反り返るのを防げます。グリルやフライパンで弱火〜中火でじっくりと火を通せば、外は香ばしく、中はご自身の脂でふっくらと蒸し焼きにされた絶品の西京焼きの完成です。
淡白で身が締まる真鱈は鍋料理が最適

さて、主役をバトンタッチして「真鱈」の調理法です。
脂が0.2gしかなく、水分割合が80%を超える真鱈。この魚の最大の特徴は、加熱するとタンパク質が素早く固まり、身がキュッと硬く引き締まることです。
この「しっかりとした構造」を持っているからこそ、グツグツと煮え滾るお鍋の中でも身崩れしにくい。つまり、冬の風物詩である「鍋料理」の主役として、真鱈の右に出るものはいないんです。
また、脂が少ないぶん味がとても淡白(クリア)なので、昆布出汁、チゲスープ、豆乳鍋など、どんなスープの味もスポンジのように素直に吸い込んでくれます。
ただし、真鱈を鍋に使う時に絶対にやっておきたい「ひと手間」があります。私自身、いろいろ試行錯誤して行き着いた方法なんですが、鱈特有の生臭さを消すための下処理です。
塩水で洗った後、ペーパーで水気をしっかり拭き取り、軽く塩を振って10分ほど置きます。こうすることで浸透圧が働き、身の奥から余分な水分と一緒に臭みがジワッと出てきます。これをもう一度サッと洗い流せば、下処理は完璧。
あとはお好みの鍋に入れるだけ。ホロリとほぐれる純白の身から、じんわりと広がる旨みを堪能してください。
水分を活かした真鱈のふっくらフライ

淡白な真鱈にもう一つ、強烈におすすめしたい調理法があります。それが「フライ(揚げ物)」です。
「脂が少ない魚を揚げたら、パサパサにならない?」と思われるかもしれませんが、実は逆なんです。真鱈がたっぷりと蓄えている「水分」が、フライにすることで最高の仕事をしてくれます。
パン粉や衣で魚を包み込み、油の中に入れるとどうなるか。外側の衣が油のコクと旨みをガッチリと補ってくれます。そして、衣に閉じ込められた真鱈の内部では、自身の持つ豊かな水分が加熱されて水蒸気となり、自分自身の水分で「ふっくらと蒸し焼き」にされる状態になるんです。
外はサクサク、中はフワッフワでジューシー。イギリスの国民食「フィッシュ・アンド・チップス」にタラが使われるのも、この理屈があるからなんですね。

【サカシュン流】真鱈フライの極意
実は私、魚の揚げ物を作る時にこだわっている温度があります。
真鱈をフライにする時は、高温で一気に揚げるのではなく、140℃〜160℃の「低温」でじっくり揚げるのが個人的なベストだと思っています。
高温だと急激に水分が奪われて硬くなりやすいのですが、低めの温度で優しく火を通すことで、真鱈のデリケートな水分を逃がさず、しっとり感を最大限に保つことができます。
この真鱈フライなら、お魚の骨さえしっかり取り除いておけば、お魚がちょっと苦手なお子様でもパクパク食べてくれること間違いなしですよ。お子様向けには、衣(パン粉)に少し粉チーズを混ぜたりするのもおすすめです。
💡 魚屋の裏技:フライもいいけど「唐揚げ」も絶品です!
パン粉をつけて揚げる「フライ」も最高ですが、真鱈は「唐揚げ」にしてもフワフワで抜群に美味しいんです!魚介を居酒屋クオリティの唐揚げにする「サカシュン流・特製バッター液」の黄金比レシピはこちら👇
今夜のメニューで決める銀鱈と真鱈の違い
いかがでしたでしょうか。名前こそ似ている「銀鱈」と「真鱈」ですが、その正体は生まれも育ちも、そして栄養成分も全く異なる、それぞれに個性豊かなお魚たちでした。
最後にもう一度、選び方の結論をまとめておきますね。
【結論:スーパーの売り場で迷ったらコレ!】
- 今日はガッツリ、濃厚なコクと脂を味わいたい!
👉 黒い皮の「銀鱈」を選んで、こってり煮付けか西京焼きに。 - 今日はさっぱりと、ヘルシーに温まりたい!
👉 まだら模様の皮の「真鱈」を選んで、お鍋の主役かサクサクのフライに。
もう、売り場でこの二つの違いに迷うことはありませんよね。
真鱈の約88倍もの脂を持ち、世界中のセレブを虜にする高級魚「銀鱈」。
超低脂質で高タンパク、日本の冬の食卓を優しく支え続ける「真鱈」。
どちらが優れているというわけではなく、それぞれにしか出せない美味しさがあります。
今夜のご家族の気分や、冷蔵庫にある調味料に合わせて、ぜひ自信を持って正しいお魚をカゴに入れてくださいね。
美味しいお魚料理で、素敵な食卓になりますように!