スーパーの鮮魚コーナーで安く売られているシイラを見かけて、買ってみようか迷ったことはありませんか。
でも、いざ買おうとして検索してみると、シイラはまずいという評価を見かけたり、毒や寄生虫、アニサキスといった不安になる言葉が出てきたりして、少し躊躇してしまうかもしれませんね。確かに、独特な見た目やジェリーミートと呼ばれる現象、さらには血抜きが不十分だと臭みが出やすいといった特徴はあります。
しかし、実はハワイではマヒマヒと呼ばれる大人気の高級魚であり、正しい下処理とレシピを知っていれば驚くほど美味しく食べられるんです。
この記事では、私が日頃から魚に触れる中で感じているシイラの魅力や、その安さの理由についてお話ししていきます。
この記事で分かること
シイラが日本で下魚扱いされる理由とハワイでの高い評価の違い
スーパーでシイラが破格の安さで売られている背景と赤身魚としての特徴
食中毒や寄生虫のリスクを正しく理解し安全に処理する方法
水っぽさと脂の少なさを逆手にとった絶品のおすすめ調理法
シイラがまずいと言われる理由と魚屋の裏話

まずは、シイラがどのような魚なのか、基本的なプロフィールを押さえておきましょう。
| 標準和名 | シイラ(鱪、鱰) |
| 生物的分類 | スズキ目 シイラ科 シイラ属 |
| 身質(分類) | 赤身魚(※見た目は白身ですが、マグロやカツオと同じ赤身魚に分類されます) |
シイラは最大で2メートル近くにもなる大型の回遊魚です。この「赤身魚である」という分類上の事実が、後ほど解説するシイラの味や、絶対に注意すべきポイントに深く関わってきます。
スーパーで見かけるシイラは、お財布に優しい価格帯で並んでいることが多いですよね。でも、なんでこんなに安いのか、そしてなぜネガティブなイメージを持たれがちなのか。まずは、その歴史的な背景や私が現場で感じているリアルな事情についてお伝えします。
偏見と下魚扱いからハワイの高級魚マヒマヒへ

シイラが日本で「まずい」「価値が低い」と言われてきた背景には、味以前の根強い偏見や歴史的な勘違いが深く関わっています。シイラは海面上を漂う流木や海藻などに群れる「走流性」という習性を強く持っている魚です。その昔、海を漂う水死体の周囲に集まるシイラの姿が目撃されたことから、「シイラは死人食いである」という決定的な誤解が生まれ、不吉な魚として忌み嫌われる原因となってしまいました。また、標準和名の「シイラ」という言葉自体も、体が平たくて身が薄い特徴から、実が入っていない空っぽの籾(もみ)を指す「粃(しいな)」に由来していると言われています。名前のルーツからして「中身がない」というネガティブなニュアンスを含んでいるんですね。
しかし、視点を変えて特定の地域や海外に目を向けると、状況は全く異なります。鳥取県などでは夏の風物詩として親しまれ、豊漁を連想させる「マンサク(万作)」という縁起の良い名前で呼ばれています。宮崎県では「まんびき(万引き)」と呼ばれ、巨大な群れを一網打尽にする伝統的な漁法が確立されており、地域のプライドフィッシュにも認定されているほどです。
さらにグローバルな視点で見ると、その評価は完全に逆転します。ハワイでは「マヒマヒ(Mahi-mahi)」と呼ばれ、現地のレストランではステーキやフライとして高値で取引される大人気の高級魚なんです。ハワイ語で「強い、強い」を意味するこの名前は、ルアーフィッシングで極めてパワフルな引きを見せることに由来します。
| 地域・言語 | 呼称 | 由来・意味合い | 評価・ステータス |
|---|---|---|---|
| 日本(標準和名) | シイラ | 粃(しいな:実のない籾)に由来 | 一部で「死人食い」と呼ばれ下魚扱い |
| 日本(鳥取県) | マンサク | 万作(縁起の良い名前) | 夏の旬の魚として親しまれる |
| 日本(宮崎県) | まんびき | 万匹(群れの規模の大きさ)に由来 | プライドフィッシュ(地域ブランド)に認定 |
| ハワイ | マヒマヒ | ハワイ語で「強い、強い」に由来 | レストランで定番の高級食材 |
| 英語圏 | ドルフィンフィッシュ | 特異な頭部の形状に由来 | スポーツフィッシングの人気標的 |
| スペイン語圏 | ドラド | 釣り上げ時の黄金色の体色に由来 | 漁師がイカ漁を放棄するほどの高級魚 |
英語圏ではその独特な頭の形から「ドルフィンフィッシュ」、スペイン語圏では釣り上げた瞬間にエメラルドグリーンから金色へと輝く体色から「ドラド(黄金)」と称賛されています。これほどまでに世界中で愛され、高く評価されている魚が、日本の一部では「まずい」と敬遠されているのは、本当にもったいないギャップだなと日々感じています。
現場の魚屋が明かす破格の安さと赤身魚の真実

私が異業種から水産の世界に飛び込み働き始めて驚いたことの一つが、シイラの圧倒的な安さです。市場での仕入れ値はキロ単価500円前後、状況によってはそれ以下になることもザラにあります。だからこそ、店頭でもお財布に優しい「特売品」として破格で並ぶことが多いのです。
鮮魚業界歴40年以上の大先輩も、「昔の市場じゃ、シイラは見向きもされないから、キロ単価じゃなくて『1匹数百円』という投げ売り状態だったよ」と笑いながら教えてくれました。この安さの裏には、先ほどお話しした歴史的な偏見に加えて、「鮮度劣化が極めて早い」というシイラ特有の厄介な性質があります。
シイラは白身魚?いいえ、ゴリゴリの「赤身魚」です
スーパーに並んでいるシイラの切り身を見ると、白っぽくていかにも淡白そうですよね。一般のお客さまの多くは「白身魚」だと思っています。しかし、魚類学や調理科学の分類上、シイラはスズキ目シイラ科に属し、マグロやカツオ、ブリなどと同じ「赤身魚」の仲間に分類されるんです。
私はもともと魚の生態や生物学的分類(目や科)にすごく興味があって調べるのが好きなのですが、回遊魚であるシイラは、広大な海を長距離泳ぎ続けるための「持続力」が求められます。そのため、筋肉組織は酸素を豊富に蓄えるタンパク質(ミオグロビン)を多く含む「遅筋(赤筋)」で構成されています。ヒラメやカレイのように海底でじっと獲物を待ち伏せし、瞬発力で捕食する白身魚(速筋)とは根本的に体の構造が違うんですね。
💡 魚屋の豆知識:見た目に騙されない魚の分類
シイラのように「身は真っ白なのに実は赤身魚」というお魚は他にもたくさんいます。スーパーでお馴染みのあの魚たちの本当の分類を知ると、最適な料理法がもっと分かりますよ!
一見すると白身魚のような淡白な見た目でありながら、細胞レベルでは赤身魚としての特性を強く備えている。この「見た目と中身のギャップ」こそが、後ほど詳しく解説する致命的な食中毒リスク(ヒスタミン中毒)や、独特の風味劣化を引き起こす最大の要因となっています。鮮度管理の難しさと、大きすぎて一般家庭では丸ごと買いづらいという流通のネックが合わさって、この破格の安さが維持されているというわけです。
皮の毒や細菌は流水洗浄と完全な皮引きで防ぐ

シイラを安全に、そして美味しく食べるために絶対に知っておかなければならないのが、表皮(皮)に潜むリスクです。検索窓で「シイラ」と打ち込むと「毒」という不穏な関連キーワードが出てくるため、驚いてしまう方も多いと思います。具体的には、シイラの体表には主に2つの危険要素が存在します。
一つ目は「表皮粘液毒」と呼ばれるものです。これはシイラ自身が外敵から身を守るために分泌している粘液そのものに含まれる毒素で、一種の自己防衛機能と言われています。人体にどれほどの猛毒かという詳細な解明は完全には進んでいませんが、少なくとも人間が食べて有益なものではないため、体表のヌメリには注意が必要です。
二つ目は、さらに現実的な脅威となる「腸炎ビブリオ菌」です。これは海水中に広く生息している細菌で、シイラ特有の菌というわけではありませんが、シイラの体表に高確率で付着しています。これを摂取してしまうと、激しい腹痛や下痢、嘔吐、発熱といった深刻な食中毒症状を引き起こします。過去には別の海産物ですが、催事場で販売されたお弁当から大規模な腸炎ビブリオ食中毒が発生し、数百人が苦しんだ事例もあるほど、生の海産物に付着した細菌の増殖力は恐ろしいものです。
プロが実践する安全な下処理ステップ
1. 流水洗浄の徹底:調理前に、必ず水道水(塩素が含まれている真水)で魚体をしっかりと洗い流します。腸炎ビブリオ菌は真水に弱いため、これだけでもかなりの菌を洗い流し、死滅させることができます。
2. 皮を完全に引く:シイラの皮は硬くて食味も劣り、上述のリスクが集中しているため、身から完全に剥ぎ取って破棄することが強く推奨されます。
3. 器具の二次汚染を防ぐ:皮を引いた後のまな板や包丁には、菌や毒素が移行している危険性があります。身を切り分ける前に、必ず調理器具を洗剤で綺麗に洗浄してください。
これらの細菌や毒素は熱に非常に弱い性質を持っているため、フライやソテーなどで中心部までしっかりと加熱調理を行えば、完全に無毒化されて安全に食べることができます。ただし、食中毒に関する情報や対処法はあくまで一般的な目安です。小さなお子様や体調の優れない方が召し上がる場合など、最終的な安全性の判断は自己責任で行っていただき、必要に応じて専門家の意見や公的機関の情報を参考にしてくださいね。
寄生虫アニサキスとヒスタミンを防ぐ低温管理
魚屋として毎日現場に立っていると、お客さまから最も多く質問されるのが「寄生虫」についてです。シイラは自然界の食物連鎖の中で小魚やイカなどを日常的に捕食しているため、内臓や筋肉の組織に「アニサキス」という白い糸状の寄生虫が潜んでいることが珍しくありません。万が一、生きたままのアニサキスを飲み込んでしまうと、胃壁に強烈に突き刺さり、のたうち回るほどの激しい腹痛と嘔吐に見舞われます。対策としては、捌く際に目視で徹底的に確認して除去すること。そして何より、中心部までの十分な加熱、または-20℃で24時間以上の冷凍処理を行うことで死滅させることができます。
そして、赤身魚であるシイラを扱う上で、アニサキス以上に警戒しなければならないのが「ヒスタミン食中毒」です。先ほど「シイラは赤身魚である」とお伝えしましたが、赤身魚の筋肉には「ヒスチジン」というアミノ酸が大量に含まれています。温度管理が不適切な状態(常温放置など)で鮮度が低下すると、魚体に付着していたヒスタミン産生菌が爆発的に増殖し、無害なヒスチジンを有毒な「ヒスタミン」へと変換して身の中に蓄積させてしまうのです。
加熱しても絶対に消えないヒスタミンの恐怖
ヒスタミン中毒の最も恐ろしいところは、「一度生成されてしまったヒスタミンは、どれだけ高温で加熱調理しても一切分解されない」という点です。食べようとした時に、舌や口の周りにピリピリとした化学的な刺激(普通の辛味とは違う違和感)を感じたら、それは既に致死量に近いヒスタミンが生成されているサインです。その場合は直ちに吐き出し、迷わず廃棄してください。
これを防ぐ唯一の手段は、水揚げされた瞬間から皆さんのご家庭の冷蔵庫に入るまで、一貫して徹底した低温管理(コールドチェーン)を維持することです。(出典:厚生労働省『ヒスタミンによる食中毒について』)スーパーで購入した際は、無料の氷や保冷剤をしっかりと活用し、寄り道をせずに真っ直ぐ家に帰って冷蔵庫(できればチルド室)に入れるよう心がけてください。このひと手間が、家族の健康を守り、シイラを美味しく食べるための最大の防御策になります。
筋肉が溶けるジェリーミートの正体と回避方法

シイラに対する強烈なトラウマを生み出しているもう一つの原因が、「ジェリーミート」と呼ばれる不気味な現象です。釣り人が持ち帰って捌いた時や、スーパーで買ってきた切り身を取り出した時、魚の身がまるでドロドロに溶けたゼリー状になってしまっていることがあります。初めて見た人は「腐っているんじゃないか!?」とパニックになるほど、衝撃的な見た目と感触をしています。
この筋肉融解現象の正体は、主に「クドア属(Kudoa)」と呼ばれる粘液胞子虫(寄生虫の一種)の仕業です。シイラには特有のクドア属が寄生していることが確認されているのですが、非常に厄介なメカニズムを持っています。宿主であるシイラが海を泳いで生きている間は、寄生虫はおとなしく共生しており、魚自身も無症状で元気そのものです。しかし、釣り上げられたり網に入ったりして宿主の魚が死んだ瞬間から、この寄生虫が強力な「タンパク質分解酵素」を分泌し始めます。この酵素の働きによって、魚の筋肉繊維が急速に液状化し、ゼリーのようにドロドロに溶けてしまうのです。
医学的な見地からは、このジェリーミート化した身そのものは人体に直接的な害を及ぼすことはなく、万が一誤って食べてしまっても食中毒を引き起こすことはないと言われています。しかし、本来の魚の食感は完全に失われており、味も著しく劣化しているため、食用としては全く適していません。「シイラ=ドロドロで気持ち悪い魚」という誤ったイメージは、この現象に遭遇してしまった人たちの声がネット上で拡散された結果でもあるのです。
困ったことに、魚を加工する前の丸ごとの状態や、皮がついた状態から外部からこの現象を見分けることは、私たちプロの目をもってしても極めて困難です。もし、スーパーで購入した切り身をご自宅で開けた際に、身が不自然に溶けてジェリーミート化していた場合は、決して無理に食べようとせず、購入した店舗に連絡して状況を報告・相談することをおすすめします。きちんとした鮮魚店であれば、事情を理解して真摯に対応してくれるはずです。
シイラはまずいという常識を覆す究極の調理法
ここまでは、シイラが抱えるリスクやネガティブな側面について赤裸々にお話ししてきました。少し怖がらせてしまったかもしれませんが、安心してください。これらのリスクは「正しい知識と適切な下処理」によって完全にコントロール可能です。そして、その弱点さえクリアしてしまえば、シイラは驚くほど美味しく、しかも家計に優しい最高の食材に生まれ変わります。ここからは、シイラのポテンシャルを爆発させる調理アプローチをご紹介します。
流通品のほとんどは「野締め」!スーパーでの見極めとコツ

シイラの身は非常に筋肉質である一方で、組織内に水分をたっぷりと含んでおり、水揚げ直後からの劣化スピードが猛烈に早い魚です。そのため、臭みを出さない究極の理想は「釣り上げた直後の完璧な血抜き」になります。
自分で釣り上げるアングラーであれば、釣った瞬間に活け締めや血抜きをして極上の状態を保てます。しかし、実はスーパーや市場に流通しているシイラのほとんどは、網で獲れてそのまま氷で冷やされた「野締め(血抜きなどの処理がされていない状態)」です。単価が安く数も多いため、漁師さんが1匹ずつ丁寧に血抜き処理をしてから出荷することはあまりないのが現状です。
だからこそ、私たち消費者がスーパーでシイラを買う時は、パック選びと「家庭でのひと手間」が超重要になります。血抜きされていない分、鮮度が落ちると身に残った血液が酸化し、生臭さやツンとする匂いが出やすくなります。パックの底に赤い汁(ドリップ)が大量に溜まっていないか、身の色が透明感を失ってどんよりと白濁していないかを厳しくチェックしてください。ドリップが少なく、身に弾力とハリがあるものを選ぶのが大前提です。
そして調理前には、必ずキッチンペーパーで身の表面の水分をギュッと拭き取ってください。さらに臭みが気になる場合は、軽く塩を振って10分ほど置き、浮いてきた水分(臭みを含んだドリップ)を再度しっかり拭き取る「塩締め」を行えば、野締めのシイラでも嫌な臭みを大幅に減らし、驚くほど美味しく食べられますよ!
水っぽさと脂の少なさを克服するプロのレシピ

鮮度の良いシイラを手に入れたら、刺身で食べてみたいと思う方もいるかもしれません。適切な処理がされた個体であれば生食も可能ですが、ここで立ちはだかるのがシイラ最大の弱点である「水っぽさ」と「脂質の少なさ」です。一口目はさっぱりとして美味しいのですが、マグロのトロや養殖ブリのような濃厚な脂がないため、二口目以降はどうしても物足りなさや水っぽさが気になり、飽きが来てしまいます。
この弱点を劇的に改善し、旨味へと昇華させる魔法の手法が「漬け(づけ)」です。私がおすすめする黄金比率は、醤油4:みりん2:酒1の割合です。ここに、おろし生姜と少量の「ごま油」をプラスします。この漬けダレに、薄切りにしたシイラの身を30分から半日ほど冷蔵庫で漬け込みます。
「漬け」がもたらす調理科学の凄さ
これには明確な科学的理由があります。まず、醤油の塩分とアルコール分が浸透圧の働きで、シイラの身から余分な水分をしっかりと脱水してくれます。これにより水っぽさが消え、身がキュッと締まります。さらに、シイラに決定的に不足している脂肪分のコクを、ごま油の植物性脂質が見事に補完してくれます。この相乗効果で、淡白だった身がねっとりとした極上の食感と旨味に変わるのです。
漬けにしたシイラをご飯の上に乗せ、卵黄を落として薬味を散らせば、高級魚にも負けない絶品の「シイラ漬け丼」の完成です。生食に挑戦する際は、このアプローチをぜひ試してみてください。
高級魚では躊躇する豪快な油とスパイスの活用

真鯛や銀鮭、本マグロといった値段の張る高級魚を買ってきた時、皆さんはどうやって調理しますか?「せっかく高い魚を買ったんだから、素材の味を活かしてシンプルにお刺身か塩焼きにしよう…」と、つい保守的になってしまいませんか。もちろんそれも美味しいのですが、ワンパターンになりがちです。
その点、シイラはスーパーの特売日なら「大きめの切り身が1切れ100円台」や「半身のブロックで数百円」といった破格の安さで手に入ります。この「圧倒的なお財布への優しさ」こそが、料理において最大の武器になります。失敗を恐れずに、外部から油分やスパイスをガッツリと効かせた豪快なアレンジ料理に思い切り挑戦できるからです。
前述の通り、シイラは脂質が少なく極めて淡白な身質をしています。これは裏を返せば、「外部から加えた油分や調味料の風味を、まるでスポンジのようにぐんぐん吸収して増幅させる」という、調理上の強烈なアドバンテージを持っているということです。例えば、キャンプやBBQで大人気の「黒瀬のスパイス」や「ほりにし」といった、ブラックペッパーやガーリック、ハーブが強烈に効いた万能スパイスをこれでもかと振りかけてみてください。オリーブオイルを引いたフライパンで焼き上げれば、魚特有の臭みは完全にマスキングされ、まるでお肉料理(上質な鶏胸肉や豚肉)を食べているかのような力強い旨味と満足感を得ることができます。

さらに、この「油と香りを吸い込む特性」を最大限に活かしたおしゃれな絶品メニューが、「シイラのハーブマリネ・オーブン焼き」です。
シイラに塩コショウをし、スライスしたニンニク、たっぷりのフレッシュハーブ(タイムやローズマリーなど)、そして全体が浸る程度のオリーブオイルで1時間ほどマリネします。オイルにじっくり漬け込むことで、シイラの身がしっとりと保たれ、中までハーブの香りが浸透します。
あとは、ミニトマトやズッキーニなどの野菜と一緒に耐熱皿に並べ、200℃に予熱したオーブンで15分ほど焼き上げるだけ!(※もし柵のまま豪快に焼きたい場合は、180℃に下げて20〜25分じっくり焼いてください)。熱が入って弾けたトマトの旨味とハーブの香ばしさがシイラに染み込み、安い魚で作ったとは到底思えない、ワインが進む極上の一皿になります。安いからこそ思い切り遊べる、これがシイラの面白さです。
格安だから挑戦できる絶品マヨゆかりフライ

我が家でも頻繁に食卓に登場し、魚が少し苦手な子供たちにも大絶賛されているレシピがあります。それが「マヨネーズ&ゆかりのパン粉揚げ(フライ)」です。シイラの真骨頂は、実は加熱調理(特に揚げ物)にあると私は確信しています。
作り方は非常にシンプルですが、理にかなっています。まず、淡白なシイラの切り身全体に、バッター液(つなぎ)の代わりとしてマヨネーズをたっぷりと塗りたくります。マヨネーズには卵黄の豊かなコクとたっぷりの油分が含まれているため、これが加熱されることでシイラの身に強烈な旨味とジューシーさを補給してくれます。さらに、パン粉の中に「ゆかり(赤しそふりかけ)」をたっぷりと混ぜ合わせ、マヨネーズを塗った身にまぶして油で揚げます。
サカシュン流!絶対にパサつかせない低温フライ
ここで重要なのが揚げる温度です。私は普段から家庭での揚げ物は「140℃〜160℃の低めの温度」を推奨しています。シイラのように元々脂が少ない魚を高温の油で一気に揚げてしまうと、身の水分が急激に奪われてパサパサに硬くなってしまいます。低温の油でじっくりと火を通すことで、身にストレスを与えず、ふっくらと柔らかい状態をキープできます。低めの温度なら油はねも少なく、キッチンも汚れにくいですよ。
外はサクサク、中はふっくらジューシー。ゆかりの爽やかな酸味とシソの香りがアクセントになり、ご飯が止まらなくなります。冷めても身が硬くなりにくいので、翌日のお弁当のおかずやお酒のおつまみとしても最強のポテンシャルを発揮してくれます。
🍳 「低温揚げ」は脂の少ない魚の最強の武器!
シイラで実践したこの「低温じっくり揚げ」のテクニックは、同じくスーパーで激安で売られているけれどパサつきやすい「あのお魚」を、鶏の唐揚げ超えの絶品に変える魔法でもあります。
淡白な身が化けるプロ直伝濃厚バタームニエル
最後にご紹介するのは、洋食の王道であり、ハワイのレストランで提供される「マヒマヒ料理」を彷彿とさせるアプローチ、ムニエルです。
シイラの切り身にしっかりと塩胡椒を振り、小麦粉を薄くまぶします。この小麦粉がコーティングとなり、シイラの身にわずかに残っている水分と旨味を外に逃がさない役割を果たします。フライパンに少し多めのバターを溶かし、中火で両面をこんがりときつね色になるまで焼き上げます。シイラは加熱しても身が崩れにくく、しっかりとした肉厚感を保ってくれるため、フライパンでの調理がとてもしやすいのも嬉しいポイントです。
焼き上がったお皿に盛り付けたら、フライパンに残った焦がしバターにレモン果汁をキュッと絞り、特製の「レモンバターソース」を作ってシイラに回しかけます。バターの香ばしく濃厚な風味と、レモンのキリッとした爽やかな酸味が、分厚くて淡白なシイラの身に完璧に絡み合います。一口食べれば、これが1切れ100円台で買えた特売魚だとは誰も信じられないでしょう。まるで高級フレンチのメインディッシュのような完成度を誇る一皿です。
結論シイラがまずいのは誤解でコスパ最強の魚
いかがでしたでしょうか。長文にお付き合いいただきありがとうございます。ここまで読んでいただければ、「シイラはまずい」というネット上の評価が、いかに表面的な情報に基づいた誤解であるかがお分かりいただけたかと思います。
その悪評の正体は、歴史的な偏見による「死人食い」という忌まわしいイメージ、赤身魚ゆえのヒスタミン中毒リスクに対する無理解、そしてジェリーミートやアニサキスといった視覚的・生理的な恐怖が複雑に絡み合った結果に過ぎません。魚そのもののポテンシャルが低いわけではなく、扱う人間の知識不足と、スーパーでの適切な処理技術の欠如が生み出した幻影だったのです。
信頼できる鮮度管理を行い、皮や寄生虫のリスクを正しく排除し、その淡白な身質を逆手にとって脂質や香りを補う調理(マヨネーズフライや濃厚バタームニエル、ごま油を使った漬けなど)を施せば、シイラはハワイでの「マヒマヒ」の異名に恥じない、極上の魚へと劇的な変貌を遂げます。未利用魚や低利用魚の価値を見直し、美味しくいただくことは、水産資源の持続可能性にも繋がる素晴らしい取り組みです。
何より、この美味しさが信じられないほどの格安価格で手に入るのですから、これほどコストパフォーマンスに優れた最強の魚は他にありません。次にスーパーの鮮魚コーナーでシイラの切り身を見かけた時は、ぜひためらわずにカゴに入れてみてください。そして今夜は、ご家族と一緒に絶品のマヒマヒ料理を思い切り楽しんでくださいね!
⚠️ ネットの「まずい・臭い」に騙されないで!
シイラと同じように、スーパーで激安で売られていて「まずい」「臭い」と不当な誤解を受けているお魚は他にもいます。プロのちょっとした下処理を知るだけで、高級魚に大化けする「コスパ最強の宝の山」をぜひチェックしてみてください!