スーパーの鮮魚コーナーに行くと、茹でダコのコーナーでふと手が止まること、ありませんか? お馴染みの「マダコ」の隣に、なんだか少し色が薄くて、お値段もお手頃な「ヤナギダコ」が並んでいる。「これ、値段が違うけど味はどうなんだろう?」「安い方を買って、ゴムみたいに硬かったら嫌だな…」なんて迷った経験、私にもあります。
実はこれ、単なる「高級品」と「安物」というランクの違いだけではないんです。マダコとヤナギダコは、そもそも育ってきた海の種類も、生活スタイルも全く異なる別の生き物。だからこそ、身についた筋肉の質が違い、向いている料理も驚くほど変わってくるのです。「奮発して高いマダコを買ったのに、おでんに入れたら硬くて失敗した」なんて悲劇は、この相性を知らなかったことが原因かもしれません。
この記事では、魚好きな私が実際に食べ比べて感じたリアルな食感の違いや、市場のプロから聞いた「目利きのポイント」を余すところなくお伝えします。生物学的な違いはもちろんですが、一番知りたい「今日の晩ご飯にはどっちを買えばいいの?」という疑問に、具体的な料理名を挙げてズバリお答えします。これを読めば、もうスーパーの売り場でスマホを取り出して検索する必要はなくなりますよ。
この記事で分かること
- マダコの「剛」の筋肉とヤナギダコの「柔」の肉質、決定的な違いの理由
- パック越しでも一目瞭然!色と肌の質感で見分けるプロの技
- 「刺身ならこっち、おでんならあっち」料理の完成度を変える使い分け術
- 失敗知らず!特有のヌメリを簡単に取る方法と、硬いタコを柔らかくする裏技
ヤナギダコとマダコの違いを生息環境から比較

まずは、なぜこの2種類のタコがこれほどまでに違う食感や見た目をしているのか、その背景にある「育ち」について深掘りしていきましょう。人間でも育った環境で性格が変わるように、タコも住んでいる海の水温や地形によって、筋肉の付き方や体質が全く異なってくるのです。
吸盤や色で見分ける両者の特徴
スーパーでパック詰めされていると、ラベルを見ないと分からない…なんて思っていませんか? 実は、ほんの少し注意深く観察するだけで、ラベルを見なくても「これはマダコだ」「こっちはヤナギダコだ」と即座に見分けられるようになります。その最大のヒントは、「肌の質感(イボ)」と「茹でたときの発色」にあります。
まず、私たち日本人に最も馴染み深い「マダコ」ですが、彼らの最大の特徴は、体表にある無数の「イボ」です。マダコは岩場やサンゴ礁に隠れる際、このイボを隆起させて岩肌に擬態します。そのため、茹で上がった状態でも表面がボコボコとしており、ゴツゴツした野性味あふれる見た目をしています。そして何より、加熱すると鮮やかな深く濃い小豆色(あずきいろ)から赤色に発色します。この「THE タコ」という食欲をそそる赤色は、マダコならではのアイデンティティと言えるでしょう。

一方、北海道や東北地方でよく見られる「ヤナギダコ」は、対照的にとてもスマートな見た目をしています。体表のイボは目立たず、全体的にツルッとした滑らかな肌触りが特徴です。「柳(やなぎ)」という名前の由来にもなったように、しなやかで優しげな雰囲気を持っています。茹で上がりの色もマダコほど濃くはなく、少しオレンジがかった明るい朱色や、茶色がかった色になることが多いです。並べてみると、マダコが「赤黒い」のに対し、ヤナギダコは「朱色っぽい」ので、色の濃淡で見分けるのが一番簡単ですね。

| 特徴 | マダコ (Common Octopus) | ヤナギダコ (Willow Octopus) |
|---|---|---|
| 肌の質感 | 大きなイボがあり、ボコボコしている | イボが少なく、ツルッとして滑らか |
| 茹でた色 | 深く濃い小豆色〜赤色 | 明るい朱色〜茶色・オレンジ色 |
| 見た目の印象 | 筋肉質でガッチリしている | しなやかでスラッとしている |
また、足(腕)の太さにも注目してみてください。マダコは付け根が太く、先に向かって急激に細くなる傾向がありますが、ヤナギダコは比較的均一な太さでスラリと伸びています。このシルエットの違いも、見分ける際の一つのポイントになりますよ。
硬いマダコと柔らかいヤナギダコの食感
「見た目の違いは分かったけど、肝心の味はどうなの?」ここが皆さんの最も知りたいポイントですよね。結論から言うと、この二者は「筋肉の密度」と「水分量」が決定的に違います。これは、彼らが生き抜いてきた過酷な環境の違いによるものです。
マダコが生息するのは、本州以南の比較的温暖な海の岩礁地帯。入り組んだ岩の隙間を縫うように泳ぎ回り、硬い殻を持つカニやエビ、貝類を力尽くで捕食する「岩場のハンター」です。ウツボなどの天敵から素早く逃げる瞬発力と、獲物を締め上げるパワーが必要なため、筋肉繊維が非常に太く、密度が高く発達しています。これが、食べた時の「プリッ」とした強い反発力と、噛み締めるほどに染み出す濃厚な旨味の正体です。「タコといえばこの歯ごたえ!」という弾力は、厳しい生存競争が生んだ賜物なんですね。
対してヤナギダコは、北海道や三陸などの冷たい海、特に水深のある砂泥底や岩場を好みます。冷たい水温に適応するため、代謝の仕組みが異なり、マダコほどガチガチに筋肉を硬直させる必要がありません。また、砂地の泥の中に潜むことも多いため、体は柔軟性に富んでいます。その結果、マダコに比べて筋肉の繊維が細かく、水分を多く含んだ肉質になります。食感は「コリコリ」というよりは、「モチモチ」「プリプリ」としていて、歯切れが良いのが特徴。お年寄りや子供でも噛み切りやすい、「優しいタコ」と言えるでしょう。
オスとメスの見分け方と性別の味

タコを買う時、「オスかメスか」なんて気にしたことはありますか? 実はタコの世界にも性差があり、それが食感にも微妙に影響しているんです。そして驚くべきことに、パックに入った状態でも、吸盤を見れば誰でも簡単に性別を判定できるんですよ。
見分け方は非常にシンプルです。タコの足の吸盤を見てみてください。吸盤の大きさが不揃いで、ところどころに極端に大きな特大の吸盤が混ざっているのが「オス」です。逆に、吸盤の大きさがきれいに揃って整然と並んでいるのが「メス」です。
なぜこんな違いがあるのでしょうか。それはオスの生態に関係があります。オスは繁殖期になると、メスとの交接や他のオスとの縄張り争いを行います。その際、相手を強く吸着したり、岩場にしっかりと張り付いたりするために、一部の吸盤を武器のように大きく発達させたと考えられています。つまり、あの不揃いな吸盤は、戦う男の勲章みたいなものなんですね。

では、味に違いはあるのでしょうか? 一般的な通説としては、以下のように言われています。
- オスの特徴: 筋肉繊維が太く、身が引き締まっている。コリコリとした強い歯ごたえを楽しみたいならオスがおすすめ。刺身や酢の物に最適。
- メスの特徴: 繊維が細かく、オスに比べると身が柔らかい。加熱しても硬くなりにくいので、煮物やおでん、柔らか煮に向いている。
ただし、これはあくまで傾向の話。個体差や鮮度による違いも大きいので、「煮物にするから絶対にメスじゃなきゃダメ!」と神経質になる必要はありません。ただ、売り場で選べる状況なら、「今日は刺身だから吸盤の大きいオスを選んでみようかな」といった具合に、ちょっとした通な選び方をしてみるのも楽しいですよ。
旬の時期のズレと値段の相場
「タコにも旬があるの?」と思われるかもしれませんが、魚と同じでタコにも一番美味しい季節があります。そして、マダコとヤナギダコではそのピークが少しズレているんです。
まずマダコですが、日本には大きく分けて2つの旬があります。一つは「夏」。特に関西地方では「半夏生(はんげしょう・7月2日頃)」にタコを食べる習慣があり、麦わらのように稲が根付くことを願ってタコを食します。この時期のタコは、産卵を控えて栄養を蓄えており、味が乗っています。もう一つは「冬」。水温が下がって身が引き締まり、甘みが増す時期です。つまり、マダコは夏と冬、二度美味しいチャンスがある食材なんです。
一方、ヤナギダコの旬は、主に秋から冬(10月〜12月頃)にかけてです。北海道などの産地では、この時期になると底引き網漁などで水揚げが増えます。特に冬場のヤナギダコは、メスが「タコマンマ」と呼ばれる卵を持っていることがあり、この卵も濃厚な珍味として人気があります。おでんが恋しくなる季節にちょうど旬を迎えるなんて、ヤナギダコはまさに冬の鍋料理のために存在するようなタコですね。
「ヤナギダコは安いから味が悪い」というのは大きな誤解です。単にマダコのような全国的なブランド価格が乗っていないことや、漁獲量の関係で安く流通しているだけ。用途さえ間違えなければ、コストパフォーマンス最強の食材になり得ます。
冬の北海道の味覚といえば、タコだけでなく真鱈の白子も絶品です。この時期だけの濃厚な味わいについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
必須のヌメリ取りと下処理の手順

もしスーパーで「生」のタコ(茹でていないグレーっぽい色のタコ)を見つけて買ってきた場合、絶対に避けて通れないのが「ヌメリ取り」です。タコの表面は大量の粘液で覆われており、これをそのまま調理すると、生臭くてとても食べられたものではありません。料理の仕上がりを左右する最重要工程です。
基本の塩揉み手順
- 塩を振る: ボウルにタコを入れ、多めの塩(タコの重量の3〜5%程度)を振りかけます。
- 揉み込む: 手でガシガシと力を入れて揉み込みます。すると、汚れた泡のようなヌメリがどんどん出てきます。
- 洗い流す: 流水でヌメリを洗い流します。
- 繰り返す: これを2〜3回繰り返します。指で触って「キュッキュッ」という音がするくらい滑らなくなれば完了です。
「正直、これって重労働だし面倒くさい…」と思いますよね。そこで、私がお勧めする裏技テクニックをご紹介します。
茹でる際は、沸騰したお湯にお茶の葉(またはティーバッグ)を入れたり、少量の酢を入れたりすると、色鮮やかに仕上がり、臭みも取れやすくなります。足先から「チョンチョン」とお湯に入れて丸まらせてから全体を沈めると、綺麗な形に茹で上がります。
ヤナギダコとマダコの違いで決める料理活用術

ここまでで、マダコとヤナギダコの性質の違いはバッチリ理解できたと思います。ここからは実践編として、「じゃあ、この料理を作る時はどっちを選べばいいの?」という疑問に、具体的なメニューを挙げながらお答えします。結論を一言で言えば、「歯ごたえを楽しむならマダコ、柔らかさを楽しむならヤナギダコ」です。
刺身やたこ焼きに向くおすすめの種類

タコそのものの「弾力」や「噛みごたえ」を主役にしたい料理には、迷わず「マダコ」を選んでください。
まず、お刺身(タコぶつ)。マダコの魅力はなんといっても、あのコリコリとした食感と、噛むほどに溢れ出る強い旨味です。薄切りにしたカルパッチョでも、マダコならペラペラにならず、しっかりとした存在感を主張してくれます。わさび醤油やオリーブオイルに負けない力強い味わいは、マダコならではのものです。
そして、みんな大好き「たこ焼き」。関西のたこ焼き屋さんで使われているタコのほとんどはマダコ(多くは輸入物)です。なぜなら、たこ焼きは生地がトロッとしているため、中の具材には「カリッ」「プリッ」としたアクセントが必要だからです。
もしここで柔らかすぎるヤナギダコを使ってしまうと、生地の食感と同化してしまい、「あれ?タコ入ってる?」と存在感が薄れてしまうことがあります。アツアツのたこ焼きをハフハフ食べた時に、しっかりとタコの弾力を感じたいなら、やはりマダコがベストチョイスです。
その他、「タコの酢の物」や「アヒージョ」など、食感のコントラストを楽しみたい料理にはマダコが向いています。特にアヒージョのようなオイル煮は、高温の油で煮ても縮みすぎて硬くなりすぎず、程よい弾力を保てるマダコの肉質が活きる料理です。

煮物やおでんで柔らかさを活かすコツ

一方で、出汁をたっぷり含ませて、ホロリと噛み切れるような食感を目指すなら「ヤナギダコ」の独壇場です。
代表的なのが「おでん」や「里芋との煮物」です。マダコをおでんに入れると、長時間煮込んでいるうちにギュッと縮んでしまい、ゴムのような硬さになってしまった経験はありませんか? これはマダコの筋肉が熱で強く収縮するためです。しかし、水分が多く繊維がしなやかなヤナギダコなら、長時間煮込んでもそこまで硬くなりません。むしろ、煮れば煮るほど繊維がほぐれ、出汁を吸って「プリッ」としつつも「サクッ」と噛み切れる絶妙な柔らかさに仕上がります。
また、北海道の郷土料理である「タコ飯」にもヤナギダコは最適です。ご飯と一緒に炊き込んでも硬くなりすぎず、ご飯にタコの甘い出汁と美しい桜色が移り、ふっくらと仕上がります。子供やお年寄りがいるご家庭で、「タコは硬くて噛み切れないから苦手…」という方がいる場合は、ぜひ一度ヤナギダコの煮物を試してみてください。「これなら食べられる!」と喜んでもらえるはずです。
さらに、「トマト煮込み」などの洋風煮込み料理にも、ヤナギダコはよく合います。身が柔らかいので、ソースとの馴染みが非常に良く、パスタの具材としても優秀です。
また、ヤナギダコはその「柔らかさ」ゆえに、マダコでは難しい「丸ごと茹でて、そのままかぶりつく」という豪快な食べ方もおすすめです。
ハサミで切りながら食べるスタイルは、子供も大喜び間違いなし!
実際に私がスーパーの激安ヤナギダコを買ってきて、ぬめり取りから丸ごと茹でまで実践した様子は、こちらの記事で写真たっぷりで紹介しています。
安くて美味しくて盛り上がる。ヤナギダコのポテンシャルを最大限に引き出す「サカシュン流」の楽しみ方をぜひご覧ください。
水分で失敗しやすい不向きな料理
万能に見えるヤナギダコですが、その「水分の多さ」が仇となってしまう料理もあります。ここを知らずに使うと、「なんか水っぽい…」と失敗してしまうので要注意です。
最も注意が必要なのが「炒め物」です。ヤナギダコは加熱すると、身に含まれる水分が外に出やすい性質があります。そのため、野菜と一緒に炒めると、タコから出た水分で全体がベチャッとしてしまい、味が薄まってしまうことがあるのです。もし炒め物に使う場合は、下茹でした後にキッチンペーパーで徹底的に水気を拭き取るか、強火でサッと短時間で仕上げる工夫が必要です。
また、「唐揚げ(ザンギ)」にする場合も注意が必要です。水分が多いタコを高温の油に入れると、油跳ねが激しくなりがちです。しっかりと衣をつける前に水分を拭き取り、場合によっては下味につけた後に一度ザルにあげて汁気を切るなどの工程を挟むと、カラッと揚がります。上手に揚げれば、外はカリカリ、中はジューシーな最高の唐揚げになりますよ。
硬い身を柔らかくする方法と茹で方

「ヤナギダコが柔らかいのは分かったけど、手元にあるのはマダコなんだ!これで柔らかい煮物を作りたい!」という場合もありますよね。安心してください。筋肉質なマダコでも、先人の知恵と科学の力を借りれば、驚くほど柔らかく仕上げることができます。
マダコを柔らかくする4つの秘策
- 大根で叩く: 昔ながらの職人の知恵です。大根(または瓶の底やめん棒など)でタコの足をバンバンと叩きます。こうすることで筋肉の繊維が物理的に壊れ、さらに大根に含まれる酵素(ジアスターゼ)がタンパク質を分解して柔らかくしてくれます。
- 炭酸水で煮る: 煮汁に炭酸水を使うと、炭酸水素ナトリウムの働きでタンパク質の分解が促進され、普通に煮るよりも早く柔らかくなります。
- お茶や酒を活用する: ほうじ茶や番茶に含まれるタンニン、または料理酒の効果で、皮が剥がれにくくなり、身もしっとりと仕上がります。
- 冷凍してから煮る: 先ほどヌメリ取りの章でも触れましたが、一度冷凍して細胞壁を壊してから煮込むと、味が染み込みやすく、柔らかくなります。これが家庭では一番手軽で効果的な方法かもしれません。
本格的な「桜煮(柔らか煮)」を作るなら、弱火でコトコトと数時間煮込むのが王道ですが、圧力鍋を使えば加圧10〜15分程度でホロホロになります。ただし、圧力鍋だと皮が剥けやすくなるので、見た目を気にする場合は弱火でじっくり派がおすすめです。
ヤナギダコとマダコの違い総まとめ
ここまで、ヤナギダコとマダコの違いを様々な角度から比較してきましたが、いかがでしたでしょうか。最後に改めて要点を整理しておきましょう。
究極の使い分けガイド
- マダコ(Common Octopus)
特徴: 筋肉質でイボが多い、茹でると濃い赤色。
食感: 強い歯ごたえと濃厚な旨味。
おすすめ料理: 刺身、たこ焼き、酢の物、アヒージョ。
こんな人に: 「タコは歯ごたえ命!」という方、見た目を華やかにしたい時。 - ヤナギダコ(Willow Octopus)
特徴: 肌が滑らかでスマート、茹でると朱色や茶色。
食感: 水分が多く、柔らかくてモチモチ。
おすすめ料理: おでん、煮物、タコ飯、唐揚げ。
こんな人に: 「硬いタコは苦手」という方、煮込み料理を作りたい時、コスパ重視の方。
どちらが「上」ということではなく、「今日の料理にはどっちが合うか?」という視点で選ぶことが、美味しい食卓への近道です。「今日は寒いから、ヤナギダコでとろとろのおでんにしようかな」「週末はマダコを買って、家でたこ焼きパーティーをしようかな」。
そんな風に、二つのタコの個性を使い分けられるようになれば、あなたはもう立派な「タコマスター」です。ぜひ次回の買い出しでは、値段だけでなく、そのポテンシャルを見極めてカゴに入れてみてくださいね。
