「黒ムツとムツの違いが分からない」と悩んでいませんか。スーパーで小ムツを見かけることはあっても、本ムツと黒ムツの違いは?と聞かれると、はっきりと答えるのは難しいですよね。水産市場や釣り人の間では明確に区別されますが、一般的にはムツとクロムツの違いは?と疑問に思う方も多いでしょう。
黒ムツとは何ですか?という基本的な疑問や、ムツの種類は?といった分類上の情報から、それぞれの旬や獲れる地域、値段がどう違うのか、気になるところは多いはずです。
特に、名前が似ている「のどぐろ(赤ムツ)」との関係は混乱しがちです。赤ムツと黒ムツ違いは何か、黒ムツとのどぐろの違いを正確に知りたいという方もいるでしょう。黒ムツと赤ムツはどっちが高いのか、赤ムツと黒ムツの値段にどれほどの差があるのかも、高級魚として比較されるポイントです。
また、黒ムツがいるなら白ムツと黒ムツの違いは?という疑問も浮かびます。これらムツに似た魚や、他にもムツと呼ばれる魚はいる?のか、別名なども含めて、水産流通上の複雑な呼び名を整理します。
分類学上、それぞれ何目何科なの?という生物学的な立ち位置や、黒ムツとムツのサイズや味の違いは?どれくらいあるのか、具体的に比較します。
食べ方についても、黒ムツは刺身で食べるのが本当に美味しいのか、スーパーで見かける小ムツとは?その正体、そして小ムツの食べ方、例えば小むつの唐揚げや塩焼き、炉端焼き、煮付けといった具体的なレシピ、小骨は多い?といった調理上の注意点まで、あらゆる疑問に答えていきます。
この記事では、黒ムツとムツの違いを、見分け方から値段、味わい、そして混同しやすい他の魚との比較まで、様々な角度から徹底的に解説します。
この記事で分かること
- ムツと黒ムツの具体的な見分け方
- のどぐろ(赤ムツ)と黒ムツの根本的な違い
- 旬の時期やおすすめの食べ方
- スーパーで見かける「小ムツ」の正体とレシピ
基本的な黒ムツとムツの違い
- そもそも本ムツと黒ムツの違いは?
- それぞれ何目何科なの?
- 黒ムツとムツのサイズや味の違いは?
- 黒ムツは刺身で食べるのが旬?
- 旬の時期と獲れる地域
- 黒ムツの値段はムツと違う?
そもそも本ムツと黒ムツの違いは?

私たちが普段「ムツ」と呼んでいる魚は、正式には「ムツ」という標準和名の魚を指します。市場や釣り人の間では、後述するクロムツと区別するために「本ムツ」と呼ばれることもあります。一方で、「黒ムツ(クロムツ)」も標準和名が「クロムツ」という別の魚で、ムツとは非常に近い近縁種にあたります。
どちらも高級魚として扱われていますが、市場での評価、特に価格面ではクロムツの方が高値がつく傾向が強いです。両者は専門家でなければ一見して見分けるのが難しいほど酷似していますが、いくつかの明確な違いが存在します。
ムツとクロムツの主な見分け方
- 体色: クロムツの方が全体的に黒っぽく、光沢が強い「墨色」に近い体色をしています。一方、ムツはやや赤みがかった銀色、あるいは茶褐色がかった体色をしています。
- 鱗(うろこ): ムツの方が鱗が大きく粗いです。対照的に、クロムツは鱗が非常に細かく、手触りもザラザラしています。
- 目の上の棘: 目の上、専門的には前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)と呼ばれる部分に、ムツは明瞭な棘(トゲ)があります。クロムツではこの棘が小さいか、ほとんど不明瞭です。
最も確実なのは、側線(体側にある線状の感覚器官)の上にある鱗の数(側線有孔鱗数)を数える方法ですが、これは一般の方が鮮魚店などで見分けるのは現実的ではありません。購入する際は、「全体的な色の黒っぽさ」と「鱗の細かさ」に注目すると良いでしょう。
鮮度や個体差もあるため、パッと見て100%判断するのはプロでも難しいことがあります。ただ、味わいには明確な個性があるため、もし両方を食べ比べる機会があれば、その違いを意識してみるのも面白いですよ。
それぞれ何目何科なの?
ムツとクロムツは、見た目が似ているのも納得で、分類学上も非常に近い関係にあります。
どちらも「スズキ目・ムツ科・ムツ属」に分類される魚です。「スズキ目」は非常に大きなグループで、タイやアジなども広義にはこの仲間に含まれますが、その中で「ムツ科」という専門の科に属し、さらに「ムツ属」としてまとめられています。生物学的には「同属異種」であり、まさに兄弟のような存在と言えます。
このため、深海に生息するという基本的な生態や、大きな目を持つといった体の構造には共通している部分が多いのです。
黒ムツとムツのサイズや味の違いは?

ムツとクロムツは、成魚のサイズと、特に「脂の乗り」という味わいの点で特徴的な違いがあります。
サイズの比較
一般的に、ムツ(本ムツ)は成魚で全長60cmほどに成長します。これに対して、クロムツはより大型になり、大きいものでは1mを超え、体重10kg近くになる個体も報告されています。市場に流通するサイズも、クロムツの方が平均して大きい傾向があります。
味の違い
どちらも非常に美味しい高級白身魚であることは共通しています。身質は柔らかく、水分を含んでしっとりしています。最大の違いは「脂の質と量」です。
- ムツ(本ムツ): 脂はありますが、クロムツに比べるとややあっさりしており、上品な旨味とふっくらとした食感が楽しめます。脂が強すぎないため、鍋物や煮付けにしてもくどくなりすぎません。
- クロムツ: ムツよりも脂の乗りが非常に良いと高く評価されています。特に皮と身の間に上質な脂を層のように蓄えており、これが独特の濃厚なコクと甘みを生み出します。
この脂の多さと質の良さから、クロムツは「ムツ」とは明確に区別され、高値で取引されることが多いです。どちらも甲乙つけがたい美味しさですが、こってりとした濃厚な脂の旨味を好むならクロムツ、上品な白身の味わいをバランス良く楽しみたいならムツがおすすめです。
黒ムツは刺身で食べるのが旬?

クロムツの最も美味しい食べ方として、刺身は外せません。特に脂が乗る旬の時期、秋から冬にかけては、その真価を発揮します。
ただ、クロムツのポテンシャルを最大限に引き出すのは、単なる刺身よりも「焼霜造り(やきしもづくり)」や「炙り」とされています。
なぜ炙り(焼霜造り)が最高なのか?
前述の通り、クロムツの最大の魅力は皮と身の間にある、厚く上質な脂の層です。この皮目をバーナーで軽く炙るか、熱湯をかけてすぐに氷水で冷やす「湯霜」にすることで、皮目が香ばしくなると同時に、皮下の脂が適度に溶け出します。
これにより、身の中心は生のしっとりとした食感を保ちつつ、表面の香ばしさと溶けた脂の甘み、中心部の旨味という複数の味わいが一度に楽しめる、最高の食べ方とされています。
他の魚の炙り刺身については、サゴシの記事やオニカサゴの記事でも紹介しています。
もちろん、ムツ(本ムツ)も同様に刺身や炙りで美味しく食べられます。他にも、脂の旨味を活かした料理が絶品です。
- 煮付け: 濃厚な脂が煮汁に溶け出し、身はふっくらと仕上がります。クロムツで作ると非常に濃厚な味わいになります。
- 塩焼き・炉端焼き: 皮目の脂が焼けて香ばしさが際立ちます。特にクロムツは脂が多いため、滴る脂で燻されるようになり格別です。
- 鍋物(ちり鍋など): ムツの上品な旨味がだし汁に溶け出し、野菜との相性も抜群です。
旬の時期と獲れる地域
ムツとクロムツは、どちらも主な旬が冬(具体的には秋口から春先)とされています。これは、夏場の産卵期を終え、水温が下がる時期に越冬のために脂をたっぷりと蓄えるためです。
獲れる地域(産地)
生息域や主な漁場にも若干の違いが見られます。
- ムツ(本ムツ): 北海道南部から九州にかけての日本近海に広く分布しています。比較的広範囲で漁獲されます。
- クロムツ: ムツよりもやや暖かい海域を好み、千葉県の銚子沖や高知県の室戸沖など、太平洋側の有名な漁場があります。
どちらも「深海魚」
ムツもクロムツも、水深200m〜700mといった深い岩礁域に生息する「深海魚」です。目が非常に大きいのは、光の少ない深海で効率よく光を集めるためと考えられています。そのため、漁獲は専門の深場釣りや底引き網、延縄漁などで行われます。
黒ムツの値段はムツと違う?
市場での評価、つまり値段にも明確な違いがあります。
ムツ(本ムツ)もクロムツも、漁獲量がそれほど多くない深海魚であり、味わいが良いため、どちらも高級魚として扱われています。しかし、両者を比較した場合、一般的にはクロムツの方が高値で取引される傾向が顕著です。
クロムツが高価な理由
- 脂の乗り: 前述の通り、ムツよりも脂の乗りが格段に良いと評価されているため。
- サイズ: ムツよりも大型に成長し、大きな個体は歩留まり(可食部)が良く、価値が高いため。
- 需要の高さ: 高級料亭や寿司店での需要が非常に高く、特に「炙り」や「握り寿司」のネタとして珍重されるため。
もちろん、漁獲量や鮮度、サイズ、時期によって価格は日々変動しますが、鮮魚店やデパートの鮮魚売り場で両者が並んでいる場合、クロムツの方が値段設定が高いことがほとんどです。その価格差は、脂の乗りへの期待感の表れと言えるでしょう。
似た魚との黒ムツ・ムツの違い
- のどぐろ(赤ムツ)と黒ムツ違い
- 白ムツと黒ムツの違いとは
- 他にもムツに似た魚はいる?
- スーパーで見かける小ムツとは?
のどぐろ(赤ムツ)と黒ムツ違い

「黒ムツ」と「赤ムツ」は、名前が対照的であるためセットで語られがちですが、これらは全く別の魚です。
「赤ムツ」の正式名称は「アカムツ」。そして、アカムツの最も有名な別名が「のどぐろ」です。その名の通り、口を開けると喉の奥(口腔内)が黒いことから、そう呼ばれています。この「喉が黒い」という特徴が、体が黒い「クロムツ」との混同を招く一因にもなっています。
分類学上も、ムツとクロムツがムツ科であるのに対し、アカムツ(のどぐろ)はスズキ目ホタルジャコ科(またはアカムツ科)に分類され、生物学的な縁は遠い存在です。国立研究開発法人 水産研究・教育機構(FRA)もアカムツを重要な水産資源として研究対象としています。(参考:水産研究・教育機構「アカムツ」)
よく「黒ムツと赤ムツ、どっちが高い?」と聞かれますが、これは比較にならないほどアカムツ(のどぐろ)の方が圧倒的に高価です。「白身のトロ」と称されるように、皮下だけでなく身全体にサシが入るように脂が回っており、日本で最も高値で取引される魚の一つです。
両者の違いを明確にするために、表にまとめます。
| 項目 | 黒ムツ(クロムツ) | 赤ムツ(のどぐろ) |
|---|---|---|
| 分類 | スズキ目 ムツ科 | スズキ目 ホタルジャコ科 (アカムツ科) |
| 外見 | 全体的に黒っぽい(墨色) | 鮮やかな赤色、目が大きい |
| 別名 | 特になし(ムツと区別される) | のどぐろ |
| 味わい | 上質な脂、特に皮と身の間が美味 | 「白身のトロ」と呼ばれる強烈な脂、身全体に脂が回る |
| 値段 | 高級魚 | 超高級魚 |
白ムツと黒ムツの違いとは

「黒ムツ(クロムツ)」や「赤ムツ(アカムツ)」がいるなら、「白ムツ」もいるのでは?と考えるのは非常に自然なことです。
しかし、「シロムツ(白ムツ)」という標準和名の魚は存在しません。これは、特定の魚を指す俗称(流通名)や地方名として使われる言葉です。
どの魚を「白ムツ」と呼ぶかは地域や市場によって異なりますが、一般的には以下のような魚が「白ムツ」として流通することがあります。
「白ムツ」と呼ばれる魚の代表例
- オオメハタ: ホタルジャコ科の魚。アカムツ(のどぐろ)に近縁で、アカムツ(赤)、クロムツ(黒)と対比して、身が白く上品な味わいであることから「白ムツ」と呼ばれることがあります。
- ワキヤハタ: ハタ科の魚。これも白身で美味しいため、俗称として使われる例があります。
したがって、「白ムツと黒ムツの違い」を問われた場合、それは「黒ムツ(クロムツ)」と「オオメハタなどの全く別種の魚」の違い、ということになります。当然、分類も味も生態も全く異なります。これらは決して偽物というわけではなく、あくまで流通上の呼び名として定着しているものです。
他にもムツに似た魚はいる?

ムツやクロムツは、深海魚特有の大きな目と強面(こわもて)の顔つきが特徴です。同じような環境に住む魚には、外見が似ているものもいます。
前述の通り、ムツとクロムツはムツ科ムツ属ですが、同じムツ科には他にも「クウロムツ」や「バケムツ」といった近縁種がいますが、これらは非常に稀で、一般の鮮魚店で見かけることはまずありません。
それよりも、名前に「ムツ」と付くことで注意すべき魚がいます。
【厳重注意】食べてはいけない「ムツ」
「それぞれ何目何科なの?」の見出しでも触れましたが、「バラムツ」や「アブラソコムツ」という魚がいます。これらは名前に「ムツ」と付きますが、ムツ科ではなくクロタチカマス科の魚です。
これらの魚は、脂の成分のほとんどが人体で消化できない「ワックスエステル(蝋)」で構成されています。この脂は体温でも溶けず、消化酵素でも分解されないため、摂取するとそのまま体外に排出され、腹痛や下痢、皮脂漏症(油が肛門から漏れ出す症状)を引き起こします。
このため、食品衛生法により、これらの魚は販売が禁止されています。釣りなどで釣れることがありますが、非常に危険ですので絶対に持ち帰ったり、食べたりしないでください。
また、近縁種ではありませんが、メバルやカサゴといった根魚(ロックフィッシュ)も、生息域は異なりますが、大きな目や口を持つ点で、どことなくムツの幼魚と似た雰囲気を持っています。
スーパーで見かける小ムツとは?

スーパーの鮮魚コーナーで「小ムツ(こムツ)」という名前で、比較的手頃な価格でパック詰めされて売られている魚を見かけることがあります。
これは、ムツ(本ムツ)またはクロムツの幼魚であることがほとんどです。どちらの種類かは特定されていないことが多いですが、サイズが小さく、まだ脂が乗り切っていないために、高級魚である成魚とは異なり、安価に流通しています。
幼魚とはいえ、さすがはムツの子。上品な白身は健在です。成魚のような強烈な脂の乗りは期待できませんが、その分、淡白でクセのない味わいを楽しむことができますよ。
小ムツの食べ方と小骨について


小ムツは、脂が少ない分、その淡白な味わいを活かした調理法が向いています。
- 煮付け: 定番中の定番。ふっくらとした身に甘辛い煮汁が染み込み、ご飯のおかずに最適です。
- 唐揚げ: サイズが小さいため、唐揚げもおすすめです。小骨は多いですが、二度揚げしたり、じっくり揚げることで骨ごと食べられる場合もあります。
- 塩焼き・炉端焼き: シンプルに塩焼きにしても、淡白な白身の美味しさを楽しめます。グリルで香ばしく焼くのが良いでしょう。
小骨に関する注意
小ムツは、ムツ科の魚の特徴として、小骨(中骨から身に伸びる細い骨)が多い魚です。煮付けや塩焼きで食べる際は、この小骨に注意しながら食べる必要があります。特に小さなお子様やご年配の方に提供する場合は、十分に気をつけてください。
骨を気にしたくない場合は、やはり唐揚げにして、骨まで食べられるようにしっかり揚げるのが最も安全な食べ方かもしれません。
また小ムツの煮付けも格別ですが、”一番うまい煮付け魚”と評されることもあるシズ(イボダイ)の煮付けもぜひお試しください。
黒ムツとムツの違いを知って正しく選ぼう
これまで解説してきたように、黒ムツとムツは非常によく似た高級魚ですが、その生態や味わいには明確な違いがあります。また、名前が似ている「のどぐろ(赤ムツ)」や「小ムツ」とも異なる特徴を持っています。最後に、この記事の要点をまとめます。
- 一般的に「ムツ」は本ムツを指す
- 「黒ムツ」はクロムツを指しムツの近縁種
- 両者はスズキ目ムツ科ムツ属に分類される
- 黒ムツはムツより体色が黒っぽく鱗が細かい
- 黒ムツはムツより大型に成長する傾向がある
- 味は黒ムツの方が脂乗りが非常に強いとされる
- ムツは上品であっさりした白身の旨味が特徴
- どちらも旬は脂が乗る冬の時期
- 黒ムツは刺身、特に皮目を炙った焼霜造りが絶品
- 値段は脂の評価が高いクロムツの方が高価
- 「赤ムツ」は「のどぐろ」の別名でムツ科ではない
- 赤ムツ(のどぐろ)は黒ムツより遥かに高価な超高級魚
- 「白ムツ」は標準和名ではなくオオメハタなどの俗称
- スーパーの「小ムツ」はムツや黒ムツの幼魚
- 小ムツは脂が少ないが煮付けや唐揚げで美味しい
- 小ムツは小骨が多いため食べる際に注意が必要
「ムツやクロムツのように、見た目が似ていて見分けが難しい魚は他にもいます。他の魚の見分け方に興味がある方は、メゴチとマゴチの違い・丸アジと真アジの違い・ハガツオとカツオの違いを解説した記事もぜひご覧ください。」