スーパーの鮮魚コーナーや年末のアメ横などで、独特の存在感を放つナマコ。よく見ると、鮮やかな赤褐色をした赤ナマコと、少し暗い青緑色をした青ナマコの2種類が並んでいることに気づくはずです。色が違うだけで、中身は同じなんじゃないのと思われがちですが、ふと値札を見てみると、そこには驚くほどの価格差があることも珍しくありません。
一般的に赤ナマコの方が高価で、青ナマコは比較的リーズナブルな価格設定になっています。この価格の違いを見ると、安い青ナマコの方は味が落ちるのかな、やっぱり高い赤ナマコを買っておけば間違いないのかなと迷ってしまうのも無理はありません。しかし、実はこの価格差、単純な味の良し悪しだけで決まっているわけではないのです。
鮮魚のプロである私たちから見ると、最大の違いはその硬さにあります。一般的には赤は硬く、青は柔らかいという明確な特徴があり、これは彼らが海の中でどのような生活を送ってきたかという生息環境の違いによって生まれるものです。
この記事では、単なる色の違いだけではない、ナマコの奥深い生態や、それがもたらす食感への影響、そしてそれぞれの特徴を最大限に引き出すための美味しい食べ方について、魚屋としての視点も交えながら徹底的に解説していきます。
これを読めば、売り場で迷うことなく、自分の好みにぴったりのナマコを選べるようになるはずです。
この記事で分かること
- 赤ナマコと青ナマコの食感や価格の違いが生じる本当の理由
- 自分の好みに合ったナマコを選ぶための具体的な判断基準
- 安い青ナマコを絶品のおつまみに変えるプロ直伝の調理テクニック
- 家庭でも失敗しないナマコの基本的なさばき方と下処理の方法
青ナマコと赤ナマコの違いは生息環境と食感にある

ナマコを語る上で最も重要なのが、この「生息環境」と「食感」の関係性です。見た目の色の違いは、実は彼らが生き抜くために身につけた環境適応の結果に過ぎません。ここでは、なぜこれほどまでに特徴が異なるのか、その生物学的な背景と、市場価値が決まるメカニズムについて、少し専門的な視点も交えながら深掘りしていきましょう。
生物学的な種類は同じでも生息域が違う
まず最初に、多くの方が誤解している大きな事実についてお話ししなければなりません。それは、「赤ナマコ」と「青ナマコ」は、生物学的には全く同一の種であるということです。犬で言えば、同じ犬種の中で毛の色が違う個体がいるのと同じような感覚に近いかもしれません。
彼らは分類学上、棘皮動物門(きょくひどうぶつもん)・マナマコ科・マナマコ属に属しており、学名はどちらも「Apostichopus japonicus(アポスティコプス・ジャポニクス)」といいます。遺伝子レベルで調べても、種を分けるほどの決定的な違いは見つかっていないのです。日本近海には約200種類以上のナマコが生息していると言われていますが、私たちが普段食用としてスーパーで見かけるのは、ほぼこの「マナマコ」一種に限られます。
では、なぜこれほどまでにはっきりと体色が分かれるのでしょうか。これには「環境変異」あるいは「表現型可塑性(ひょうげんかたかそせい)」と呼ばれる現象が関係していると考えられています。簡単に言えば、「自分が住んでいる場所の背景色に合わせて、体の色を変化させている」のです。これはカメレオンのような一時的な変色ではなく、成長の過程で定着していく恒久的なものです。
| 呼称 | 生物学的分類 | 主な生息環境 | 体色の由来(保護色) |
|---|---|---|---|
| 赤ナマコ | マナマコ | 外洋に面した岩礁地帯(岩場) | 岩肌や紅藻類(赤い海藻)に紛れる赤褐色 |
| 青ナマコ | マナマコ | 内湾の穏やかな砂泥地(砂場) | 海底の砂や泥、アマモ場に溶け込む青緑〜暗緑色 |
このように、彼らは外敵である魚やカニなどから身を守るため、見事な保護色を身にまとっています。岩場には赤い海藻やゴツゴツした岩肌が多いため、赤褐色になることで背景に溶け込みます。一方、砂地や泥地は全体的に暗い緑色や灰色をしているため、青ナマコのような色が隠れるのに適しているのです。
稚ナマコの段階では色の区別がつきにくく、育つ環境によって色が決定づけられるという研究結果も報告されています。つまり、私たちが店頭で見ている色の違いは、彼らが「どこで育ったか」を示す履歴書のようなものなのです。
岩場育ちの赤ナマコは身が硬くコリコリ食感

赤ナマコが「高級品」として扱われる理由の一つに、その独特な食感があります。結論から言うと、赤ナマコは非常に「硬い」です。そしてこの硬さこそが、多くの食通を唸らせる要因となっています。
赤ナマコが生息するのは、外洋に面した潮の流れが速い岩礁地帯(岩場)です。ここは常に波が打ち寄せ、激しい水流が発生する過酷な環境です。もしナマコがぼんやりしていたら、あっという間に波にさらわれて沖へと流されてしまうでしょう。そこで赤ナマコは、流されないように必死で岩にしがみつく必要があります。
彼らは腹側にある「管足(かんそく)」と呼ばれる無数の吸盤のような足と、体壁の筋肉をフル活用して、岩盤に強力に固着します。人間で言えば、常にボルダリングをして全身の筋肉を緊張させているような状態を想像してみてください。このように、激しい潮流に耐え、岩に張り付き続ける生活を送ることで、赤ナマコの体壁(皮と筋肉)は鍛え上げられます。
具体的には、体壁を構成するコラーゲン繊維が非常に密になり、網目状に強固に結びつくようになります。これが、食べたときの「ガリガリ」「コリコリ」という、顎を押し返すような強い弾力を生み出しているのです。
「赤ナマコは岩を食べるから硬くなる」という俗説がありますが、実際には「岩にしがみつくための物理的な負荷」が硬さの主原因です。この強靭な食感は、薄く切っても損なわれることがなく、噛み締めるたびに口の中で踊るような弾力を楽しむことができます。
砂地育ちの青ナマコは身が柔らかく優しい食感

対照的に、青ナマコは内湾の穏やかな砂地や泥地を主な生息域としています。ここは岩場に比べると波の影響を受けにくく、非常に静かな環境です。
砂地にはしがみつくべき岩もありませんし、激しい波に耐える必要もありません。青ナマコは海底の泥の中に含まれる有機物を食べるために移動はしますが、体にかかる物理的な負荷(ストレス)は、赤ナマコに比べると圧倒的に少ないのです。泥の上を這う生活では、岩場ほど強靭な筋肉や吸着力は必要とされません。
その結果、青ナマコの体壁はそれほど強靭になる必要がなく、水分を多く含んだ、比較的柔らかく柔軟な肉質になります。包丁を入れると「サクッ」と抵抗なく切れるものが多く、口に入れたときも、強い咀嚼力を必要とせずに噛み切ることができます。
よく「青ナマコは安いから鮮度が悪くてブヨブヨしているのでは?」と勘違いされることがありますが、これは鮮度の問題ではなく、「育った環境が穏やかだったから柔らかい」というのが正解なのです。むしろ、水分量が多い分、瑞々しさがあり、食べた瞬間の口当たりが優しいのが特徴です。
「ナマコは硬くてゴムみたいで苦手」というイメージを持っている方は、実は硬い赤ナマコを食べてしまっていただけかもしれません。柔らかい青ナマコであれば、そのイメージが覆る可能性があります。
値段の差は味ではなく希少性と漁獲難易度
スーパーの売り場で赤ナマコと青ナマコの価格差を見ると、どうしても「高い=美味しい」「安い=劣っている」というイメージを持ってしまいがちです。しかし、この価格形成の裏側には、味以外の経済的な事情が大きく関わっています。
価格差を生む最大の要因は、「漁獲の難易度(手間)」と「漁獲量(供給量)」の違いです。
まず青ナマコですが、彼らは平坦な砂泥地に生息しているため、「小型底びき網」や「桁網(けたあみ)」などで、船の上から網を引いて効率的に漁獲することが可能です。一度の出漁で大量に水揚げできるため、漁師さんにとってもコストパフォーマンスが良く、市場への供給量も安定します。これが、青ナマコが比較的安価で手に入る大きな理由です。
一方、赤ナマコが生息するのは複雑な地形をした岩場です。ここでは網を使うことができません。網が岩に引っかかって破れてしまうからです。そのため、赤ナマコ漁は、漁師さんが小船に乗り、箱メガネで海底を覗きながら長い竿で一つ一つ引っ掛けて獲る「磯見漁」や、直接海に潜って手づかみで獲る「素潜り漁」が主流となります。
想像してみてください。寒い冬の海で、波に揺られながら一つ一つ丁寧に獲る手間と労力を。当然、一度に獲れる量は限られます。この「圧倒的な手間の差」が、そのまま価格に反映されているのです。
さらに、日本特有の文化も価格を押し上げています。お正月のおせち料理では「紅白」が縁起が良いとされるため、赤いナマコは年末にかけて需要が爆発的に高まります。「祝いの席には赤」「歯ごたえが良いのは赤」というブランド価値が確立されていることも、高値安定の一因となっています。
栄養や旬の時期にはほとんど差がない
「高い赤ナマコの方が栄養があるのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、栄養価に関しても両者に大きな差はありません。どちらも非常に優れた健康食材です。
ナマコは約90%が水分でできていますが、残りの固形分の主成分は良質なタンパク質とコラーゲンです。脂質が極めて少なく低カロリーであるため、ダイエット中の方にも最適な食材と言えます。
また、ナマコ特有の成分として注目されているのが「サポニン(ホロトキシン)」です。これはナマコが外敵から身を守るために持っている防御物質で、強い防カビ作用や抗菌作用があることが知られています。漢方では「海参(かいじん)」と呼ばれ、古くから滋養強壮薬として珍重されてきました。このサポニンは、赤ナマコにも青ナマコにも含まれており、健康効果に優劣はありません。
そして、最も重要な「旬」についてですが、これも赤と青で共通しています。ナマコの旬は、水温が下がる晩秋から冬、そして春先(11月〜3月頃)にかけてです。
ナマコは水温が高い夏場が大の苦手です。水温が25度を超えると活動を停止し、岩陰などでじっとして動かなくなる「夏眠(かみん)」という状態に入ります。この時期は餌も食べず、消化管も退化して小さくなり、身も溶けたようにドロドロになってしまいます。寒くなって活動を始め、身が引き締まった冬こそが、赤も青も最も美味しくなる季節です。市場に出回る量が増え、価格が落ち着き、味が乗ってくるこの時期こそ、ナマコの食べ時と言えるでしょう。
青ナマコと赤ナマコの違いを活かす究極の食べ方
ここまでで、赤ナマコは「岩場で育ったから硬い」、青ナマコは「砂地で育ったから柔らかい」という違いをご理解いただけたかと思います。それでは、この知識を実際の食卓にどう活かせばよいのでしょうか?ここからは、それぞれの特徴を最大限に引き立てる「究極の食べ方」と、家庭で実践できるプロの技をご紹介します。
柔らかい青ナマコは初心者におすすめ

ナマコ料理の王道といえば「ナマコ酢」ですが、実はナマコ初心者の方には、安価な青ナマコの方が断然おすすめです。
赤ナマコは非常に硬いため、慣れていないと「ゴムを噛んでいるみたいで飲み込めない」「顎が疲れる」と感じてしまうことがあります。特に厚切りにしてしまうと、噛み切れずにそのまま飲み込むことになり、味も食感も楽しめません。しかし、身が柔らかい青ナマコであれば、サクッと噛み切ることができ、口の中にいつまでも残る不快感がありません。
「安いから悪い」のではなく、「柔らかくて食べやすい」のが青ナマコの最大のメリットです。家庭の食卓で、家族みんなで食べる惣菜としてナマコ酢を作るなら、青ナマコを選ぶのが賢い選択と言えるでしょう。お酢との馴染みも良く、短時間で味が染み込みやすいため、調理の手間も省けます。
硬い赤ナマコは食感重視の通が好む

一方で、「ナマコはあのガリガリとした歯ごたえこそが命!」という生粋のナマコ好き(通称:ナマコラバー)の方々が選ぶのは、やはり赤ナマコです。
噛めば噛むほど広がる上品な旨味と、顎を押し返すような強烈な弾力は、日本酒のアテとして最高です。特に、薄くスライスしてもコリコリ感がしっかりと残るため、高級料亭などの突き出しで出されるのは、ほとんどがこの赤ナマコです。薄く切っても存在感が消えない、その圧倒的なテクスチャこそが、美食家たちを惹きつけてやまない理由です。
「お正月だから奮発して」「今日はとびきり硬いナマコで一杯やりたい」というシーンでは、迷わず赤ナマコを選びましょう。辛口の熱燗をちびちびとやりながら、赤ナマコの硬い身を噛み締める時間は、まさに冬だけの贅沢と言えます。
高級珍味このわた作りには青ナマコが適している理由
ここで一つ、プロならではの豆知識をご紹介します。ナマコの内臓を塩辛にした日本三大珍味の一つ「このわた(海鼠腸)」。実はこれ、一般的には安価な青ナマコから作られるものが、加工に最適とされ重宝されているのをご存知でしょうか?
これには明確な理由があります。砂泥地を動き回って大量の砂ごと餌を食べる青ナマコは、消化能力を高めるために、腸が非常に太く、長く発達している傾向があります。そのため、1匹から取れる「このわた」の量が多く、見栄えの良い長い製品が作りやすいのです。
一方、赤ナマコの内臓も濃厚で美味しいのですが、腸が比較的短く細い傾向にあります。さらに、赤ナマコは身(肉)自体の価値が非常に高いため、内臓を取るためだけに加工されることはコスト的に難しく、結果として市場に出回る「このわた」の多くは青ナマコ由来となっているのです。
実際に青ナマコをさばいてみると分かりますが、お腹の中から驚くほど長いオレンジ色の腸が出てきます。これを捨ててしまうのは、本当にお金をドブに捨てているようなものです。もし丸ごとの青ナマコを手に入れたら、ぜひ自家製の「このわた」作りに挑戦してみてください。瓶詰めで買うと数千円する高級珍味が、捨ててしまうはずの部分から作れるのですから、これ以上のコストパフォーマンスはありません。
独特の臭みを消しさらに美味しくする茶ぶり

「青ナマコは柔らかくて食べやすいけど、独特の泥っぽい匂いがちょっと苦手…」という方や、「赤ナマコをもらったけど、硬すぎて歯が立たない!」という方に試してほしいのが、プロの技「茶ぶり(ちゃぶり)」です。
これは、緑茶(煎茶やほうじ茶など)を煮出した熱湯にナマコをくぐらせるという調理法です。お茶に含まれるタンニンやカテキンが、ナマコの独特の臭みを消してくれると同時に、タンパク質を変性させて身を柔らかくする効果があります。ナマコのコラーゲンは熱に弱く、加熱すると急激に縮んで硬くなる性質がありますが、お茶の成分がその変化を緩やかにし、絶妙な食感へと導いてくれるのです。
青ナマコに行えば、泥臭さが消えて上品な味わいになり、さらに柔らかく食べやすくなります。赤ナマコに行えば、硬すぎる身が程よい弾力になり、子供でも食べやすくなります。まさに一石二鳥の魔法のテクニックです。
硬さに合わせた最適な切り方の工夫
素材の硬さが違うということは、美味しく食べるための「包丁の入れ方」も変える必要があります。ただ漫然と輪切りにするのではなく、それぞれの個性に合わせた切り方をすることで、ナマコのポテンシャルを最大限に引き出すことができます。
家庭でできる簡単なナマコのさばき方

最後に、スーパーで丸ごとのナマコを買ってきた場合のさばき方を簡単に解説します。見た目はグロテスクですが、構造はとてもシンプルなので魚をさばくよりずっと簡単です。ウロコも骨もありませんので、キッチンばさみだけでも処理できてしまうほどです。慣れれば1分もかかりません。
| 手順1:両端を落とす | ナマコの体の両端には、口と肛門(硬い石灰質の殻のような部分)があります。ここを食べても美味しくないので、左右それぞれ1cm〜1.5cmほど包丁で切り落とします。 |
|---|---|
| 手順2:お腹を開く | ナマコを観察すると、イボイボがある背中側と、比較的平らな腹側があるのが分かります。腹側の中央に包丁の先を入れ、縦一直線に切り開きます。 |
| 手順3:内臓を取る | 開いたお腹の中から、内臓を取り出します。前述した通り、オレンジ色の長い筋(腸)は「このわた」になるので、捨てずに取っておきましょう。砂が入っているので、腸の中身をしごき出す処理をお忘れなく。 |
| 手順4:塩もみとぬめり取り | ここが最重要ポイントです。ナマコの表面には独特のぬめりがあります。ボウルかザルにナマコを入れ、多めの塩を振って手で力強く揉み込みます。泡立ったぬめりが出てきたら、流水でしっかりと洗い流します。これを2回ほど繰り返すと、表面がキュキュッとして臭みも取れます。この一手間で仕上がりの味が劇的に変わります。 |
まとめ:青ナマコと赤ナマコの違いをしって迷わず買おう
青ナマコと赤ナマコの違いについて、生態や食感、そして食べ方の観点から詳しく解説してきました。最後に、あなたが今日どちらのナマコを買うべきか、選び方のポイントをまとめます。
結論:どちらを買うべき?
- 赤ナマコ(硬め・高級)
岩場育ちで強烈なコリコリ食感が特徴。歯ごたえを楽しみたい通の方、お正月や来客用に見栄えを良くしたい時におすすめ。調理の際は「薄切り」にするのがポイント。 - 青ナマコ(柔らかめ・安価)
砂地育ちで身が柔らかく食べやすいのが特徴。ナマコ初心者や高齢者、家庭の惣菜としてたくさん食べたい時におすすめ。少し厚めに切ってモチモチ感を楽しむのが正解。泥臭さが気になる場合は「茶ぶり」で解決。
「青ナマコは安いからマズい」というのは、単なる誤解に過ぎません。「柔らかいナマコが好き」という方にとっては、むしろ青ナマコの方が最高の食材になります。ぜひ今度スーパーに行った際は、色や値段だけでなく、「今日はどんな食感を楽しみたいか」という基準でナマコを選んでみてください。
きっと、これまでとは違ったナマコの美味しさに出会えるはずですよ。