「ウルメイワシは美味しくない」という印象をお持ちではないでしょうか。
確かにマイワシ(真いわし)との違いや、ウルメイワシとカタクチイワシの違いを知らないまま、脂の乗ったマイワシと同じ感覚で塩焼きなどにすると、パサついた食感にがっかりすることがあるかもしれません。しかし、それはウルメイワシの持つ本当の特徴と、最適な食べ方を知らないまま調理してしまったことが原因の可能性があります。
ウルメイワシは、マイワシととちらが美味しいかと比べられることも多いですが、それぞれに全く異なる魅力があります。ウルメイワシの旬やマイワシとの旬の違い、そして主な獲れる地域を知ることで、その魚が持つ本来の美味しさに出会えるのです。
この記事では、ウルメイワシが分類される何目何科といった基本情報から、美味しい食べ方、そしておすすめのレシピ(煮付け、蒲焼、酢締めなど)までを網羅的に解説します。また、ウルメイワシは内臓ごと食べられる干物が有名ですが、それは無胃魚であることと関係しています。他に無胃魚はいるのかといった豆知識や、含まれる効能にも触れていきます。
鮮度が命であるため、朝獲れの刺身を食べる際の小骨の処理方法や、アニサキスに関する注意点も詳しく紹介します。「ウルメイワシは美味しくない」という誤解を解き、その真の魅力を再発見していきましょう。
この記事で分かること
- ウルメイワシが美味しくないと言われる理由と本当の魅力
- マイワシやカタクチイワシとの味や旬、見分け方の違い
- 鮮度抜群の刺身の食べ方とアニサキスなどの注意点
- 塩焼きより干物が推奨される理由と、美味しいレシピ
ウルメイワシは美味しくない?その特徴と理由
- ウルメイワシは何目何科?獲れる地域は
- ウルメイワシの旬とマイワシとの旬の違い
- 真いわしとの違い、カタクチイワシとの違い
- マイワシととちらが美味しいか徹底比較
- ウルメイワシは無胃魚?他に無胃魚はいる?
ウルメイワシは何目何科?獲れる地域は
ウルメイワシは、分類学的にはニシン目ウルメイワシ科ウルメイワシ属に分類される魚です。ここで面白いのは、名前に「イワシ」と付くものの、マイワシやカタクチイワシが属する「ニシン科」とは、異なる「ウルメイワシ科」として扱われることがある点です(ただし、近年の分類体系ではニシン科に統合される見解もあります)。
その最大の特徴は、名前の由来にもなった「潤んだような大きな目」です。これは、目を覆う透明な膜(脂瞼:しけん)が発達しているため、そのように見えます。体型はマイワシが平たい(側扁)のに対し、ウルメイワシはより細長く、断面が丸い円筒形に近い形をしています。新鮮なものは背中が美しいコバルトブルーに輝き、体に斑点はありません。
主な生息域と獲れる地域
ウルメイワシは、北海道南部から九州南岸にかけての日本沿岸、特に黒潮などの暖流の影響を受ける海域に広く分布しています。マイワシやカタクチイワシが沿岸の表層を泳ぐことが多いのに対し、ウルメイワシはそれらよりもやや沖合を回遊する性質があります。
日本国内での主な産地(獲れる地域)としては、以下のような場所が知られています。
- 島根県:山陰地方は有数の漁場です。
- 高知県:特に土佐市宇佐町では、「宇佐もん一本釣りうるめ」としてブランド化されています。網で獲るのと違い、一本釣りは魚体に傷がつきにくく、鮮度管理も徹底できるため、刺身で食べられる高品質なウルメイワシとして有名です。
- 三重県
- 長崎県
- 宮崎県・鹿児島県
豆知識:なぜ目が大きいの?
ウルメイワシの目が大きい明確な理由は解明されていませんが、一説には、他のイワシ類よりもやや沖合の深い層を泳ぐことがあるため、少ない光を効率よく集めるために目が発達したのではないかと考えられています。
ウルメイワシの旬とマイワシとの旬の違い

ウルメイワシとマイワシは、同じ「イワシ」という名で呼ばれますが、脂の乗り方や味が最も良くなる「旬」の時期が異なります。この違いこそが、「ウルメイワシは美味しくない」という誤解を生む最大のポイントかもしれません。
ウルメイワシの旬:冬(10月~2月頃)
ウルメイワシの旬は、晩秋から冬にかけての10月~2月頃とされています。この時期、ウルメイワシは産卵を控え、体に栄養を蓄えるため適度に脂が乗ります。
ただし、ここで重要なのは、マイワシのように「脂がギトギトになる」わけではないという点です。ウルメイワシの脂はあくまで上品で、身そのものの赤身が持つ強いうま味が特徴です。
この時期の新鮮なウルメイワシは、刺身や、うま味を凝縮させた干物(丸干し)でその真価を発揮します。
マイワシの旬:梅雨~秋(6月~10月頃)
一方、私たちが「脂の乗ったイワシ」としてイメージするマイワシの旬は、初夏から秋口にかけての6月~10月頃です。特に梅雨時期(6月~7月)に獲れる大型のものは「入梅イワシ」と呼ばれ、1年で最も脂が乗ります。その脂の乗りは、まるでマグロのトロのようだと表現されるほどです。
この時期のマイワシは脂の甘みが非常に強く、刺身はもちろん、塩焼きや煮付けにしても、その脂が身に回ってふっくらとジューシーに仕上がります。
旬の比較ポイントまとめ
- ウルメイワシ(旬:冬):脂は上品で、身のうま味(赤身)で勝負するタイプ。
- マイワシ(旬:夏~秋):脂が非常に多く、脂の甘みと濃厚さで勝負するタイプ。
このように、旬の時期も、美味しさの種類も全く異なります。夏にウルメイワシを食べたり、冬にマイワシの濃厚な脂を期待してウルメイワシを食べたりすると、「美味しくない」と感じてしまう可能性が高いのです。
真いわしとの違い、カタクチイワシとの違い

日本で「イワシ」として流通するのは、主にウルメイワシ、マイワシ(真いわし)、カタクチイワシの3種類です。これらは見た目も味わいも、そして主な用途も大きく異なります。
「ウルメイワシは美味しくない」と感じる原因の一つに、これら3種の特徴を知らず、マイワシの調理法をウルメイワシに当てはめてしまうことが挙げられます。それぞれの特徴を理解し、見分けることが、イワシを美味しく食べる第一歩です。
| 種類 | 見た目の特徴 | 味わいの特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ウルメイワシ (潤目鰯) | ・目が大きく潤んで見える ・体型は細長く円筒形 ・体に斑点はない ・ウロコが剥がれやすい | ・脂は少なめ~上品 ・赤身でうま味が強い ・身が柔らかく、鮮度落ちが早い | 干物(めざし、丸干し) 鮮度が良ければ刺身 |
| マイワシ (真いわし) | ・体に黒い斑点(七つ星)がある ・体型はずんぐりして平たい(側扁) ・ウロコがしっかりしている | ・脂が非常に多い ・白身に近い ・脂の甘みが強い | 刺身、塩焼き、煮付け フライ、缶詰など万能 |
| カタクチイワシ (片口鰯) | ・下アゴが極端に小さい(片口に見える) ・背中が黒っぽい ・体型は3種の中で最も小さい | ・脂は少なく、特有の風味 ・うま味が凝縮されやすい ・骨が柔らかい | 煮干し(出汁) アンチョビ、しらす・ちりめん |
このように、ウルメイワシは元々脂が少なく、うま味で勝負するタイプのイワシです。マイワシと同じ感覚で脂の乗った塩焼きを期待すると、「パサパサして美味しくない」と感じてしまうのは、ある意味当然のことなのです。
スーパーで選ぶときは、「目が大きいのがウルメ」「黒い点々があるのがマイワシ」と覚えると簡単です。
そして、「干物ならウルメ」「塩焼きならマイワシ」と使い分けるのがおすすめです!
マイワシととちらが美味しいか徹底比較
「ウルメイワシとマイワシ、結局どちらが美味しいのか?」という疑問は、イワシ好きの間でもよく議論になります。これは「マグロの赤身とトロ、どちらが美味しいか」と尋ねるのに似ており、結論から言えば「美味しさのベクトルが全く異なるため、好みと食べ方による」というのが最も正確な答えになります。
脂の甘みと濃厚なコク:マイワシ
旬の時期(夏~秋)のマイワシ、特に「入梅イワシ」は、口の中に入れた瞬間にとろけるような、圧倒的な脂の量と甘みが最大の魅力です。この脂にはDHAやEPAといった良質な脂質が豊富に含まれており、それが濃厚なうま味とコクを生み出します。
「イワシの刺身」と聞いて多くの人が想像する、あのこってりとした濃厚な味わいは、まさにマイワシならではのものです。塩焼きや蒲焼にしても、その脂が身に回り、ふっくらとジューシーに仕上がります。
こんな人におすすめ: とにかく脂の乗った魚が好きで、こってりとした脂の甘みと濃厚な味わいを求める方。
上品なうま味と赤身の風味:ウルメイワシ
ウルメイワシの魅力は、脂の量ではなく、身そのものが持つ赤身の強いうま味(イノシン酸など)にあります。脂はマイワシに比べて格段に上品で、しつこさがありません。鮮度抜群なものの刺身は、マイワシとは全く異なる、さっぱりとしつつも奥深い魚本来の風味を強く感じられます。
そして、ウルメイワシが真価を発揮するのが干物です。元々水分が少なく、うま味が凝縮されやすいため、干すことでそのうま味が極限まで高められます。「めざし」などの丸干しで、内臓のほのかな苦みと共に凝縮されたうま味を味わうのは、ウルメイワシならではの食文化です。
こんな人におすすめ: 魚本来の上品なうま味や、さっぱりとした赤身の風味を好む方。脂っこい魚が苦手な方。干物が好きな方。
結論:美味しさは「別物」として楽しむ
マイワシを「脂の美味しさ」を味わう魚とするなら、ウルメイワシは「うま味の美味しさ」を味わう魚です。どちらが上ということではなく、それぞれの特徴を最大限に活かした食べ方(マイワシは刺身や塩焼き、ウルメイワシは鮮度抜群なら刺身、または干物)で味わうのが、最も賢明な楽しみ方と言えます。
ウルメイワシは無胃魚?他に無胃魚はいる?

ウルメイワシの「丸干し」や「めざし」が、なぜ内臓(ワタ)ごと食べられるのか。その秘密は、ウルメイワシの体の構造にあります。実は、イワシ類(ウルメイワシ、マイワシ、カタクチイワシ)は、すべて「無胃魚(むいぎょ)」に分類されます。
無胃魚とは?
無胃魚とは、その名の通り「胃袋を持たない魚」のことを指します。人間や多くの魚(タイ、マグロ、サバなど)は、食べた物を食道から胃袋に送り、そこで一時的に溜め、胃酸で強力に消化します。
しかし、無胃魚は食道と腸がほぼ直結しています。食べた物は食道を通るとすぐに腸に送られ、そこで消化・吸収されます。胃袋という貯蔵庫がないため、消化が非常に早く、常にエサを食べ続ける必要があります。
他に無胃魚はいる?
ウルメイワシ以外にも、無胃魚は意外と私たちの身近に存在します。
- サンマ
- コイ、フナ、金魚
- フグ類
- メダカ
- トビウオ
- ブダイ、ベラの仲間
秋の味覚であるサンマの塩焼きで「ワタ(内臓)も食べられる」のは、サンマが無胃魚であり、かつ腸が非常に短いためです。食べた物がすぐに排出されるため、内臓に未消化のものが残りにくく、臭みや苦みが少ないのです。
ウルメイワシと内臓(ワタ)
ウルメイワシの「めざし」や「丸干し」が内臓ごと食べられるのも、無胃魚であることが大きな理由です。新鮮なうちに加工されたウルメイワシの内臓は、独特のほろ苦さがうま味を引き立てるアクセントとなります。これが「通の味」とされるゆえんです。
ただし、これはあくまで鮮度が良い場合の話です。ウルメイワシは鮮度落ちが非常に早いため、刺身や煮付けで食べる際は、後述する方法で内臓をしっかり処理する必要があります。
「ウルメイワシ 美味しくない」を覆す調理法

- 朝獲れ刺身の注意点とアニサキス対策
- 刺身の小骨が気になる時の食べ方
- 塩焼きは不向き?干物がおすすめな理由
- 煮付け・蒲焼・酢締めの万能レシピ
- 内臓の処理方法と含まれる効能
- 「ウルメイワシ 美味しくない」は調理次第
朝獲れ刺身の注意点とアニサキス対策

「ウルメイワシは美味しくない」という評価を覆す可能性を秘めているのが、鮮度抜群の「刺身」です。ウルメイワシは、イワシ類の中でも特に鮮度落ちが早い魚として知られています。身が非常に柔らかく、酵素の働きが強いため、水揚げから時間が経つとすぐに自己消化が進み、身が崩れて臭みが出てしまいます。
しかし、高知県の一本釣りのように、水揚げ直後に氷締めにされるなど、適切に処理された「朝獲れ」のウルメイワシは、マイワシの刺身とは全く異なる、上品なうま味とさっぱりとした食感を持つ格別な美味しさを誇ります。
注意点1:とにかく鮮度が命

刺身で食べる場合は、「朝獲れ」「一本釣り」「活〆」など、鮮度に最大限こだわった個体を選ぶ必要があります。残念ながら、一般的なスーパーの鮮魚コーナーで見かけるパック詰めのウルメイワシは、加熱用であることがほとんどで、刺身には向かないことが多いです。
刺身用を選ぶ最低条件は、「目が澄み切っていること」「体にハリがあり、硬直していること」「エラが鮮やかな紅色であること」です。
注意点2:アニサキス対策

イワシ、サバ、アジなどの青魚を生食する際に、最も注意すべき点が寄生虫であるアニサキスです。アニサキスは通常、魚の内臓表面に寄生していますが、宿主である魚が死ぬと、鮮度の低下とともに内臓から筋肉(身)へと移動します。
ウルメイワシは特に鮮度落ちが早いため、アニサキスの移動も早いと考えられ、生食には細心の注意が必要です。
アニサキスによる食中毒(激しい腹痛)を防ぐためには、以下の対策が有効です。
- 新鮮なうちに内臓を速やかに除去する。(アニサキスが身に移動するのを防ぐため)
- 目視でよく確認する。(調理中に白い糸状のアニサキスがいないか、特に腹身(ハラス)の周りを念入りに確認する)
- 加熱する。(70℃以上、または60℃で1分以上の加熱で死滅します)
- 冷凍する。(-20℃で24時間以上の冷凍で死滅します)
酢締め・塩締め・醤油・わさびではアニサキスは死滅しません
よく「酢で締めれば大丈夫(しめ鯖など)」と誤解されがちですが、一般的な料理で使う食酢や塩、わさび、醤油ではアニサキスは死滅しません。これは厚生労働省も注意喚起している重要なポイントです。
生食する際は、①新鮮なうちに内臓除去、②目視確認、③(不安なら)冷凍、のいずれかが必須となります。
刺身の小骨が気になる時の食べ方
ウルメイワシの刺身を食べる際、アニサキスと並ぶもう一つのハードルが「小骨」です。イワシ類は小骨が多く、特にウルメイワシの骨は細く長いため、処理を誤ると口当たりが著しく悪くなります。
しかし、適切な処理を施すことで、小骨を気にせず美味しく食べることができます。
対策1:基本の「手開き」で丁寧にさばく
ウルメイワシは身が非常に柔らかいため、包丁で三枚におろそうとすると身が崩れてしまいがちです。そのため、基本は「手開き」でさばくのが最も適しています。
- 頭と内臓を取り除き、腹の中を流水でよく洗います。
- 中骨の上に親指を入れ、骨に沿って尾まで滑らせるようにして身を二つに開きます。
- 尾の付け根で中骨をポキッと折り、頭側に向かってゆっくりと中骨を剥がしていきます。
- 腹骨(肋骨)が残るので、そこだけ包丁で薄くすき取ります。
- 最後に皮を、尾の方から頭側に向かって手で剥ぎ取ります。
手開きにすることで、身の崩れを最小限に抑えつつ、大きな骨をきれいに取り除くことができます。
対策2:「骨切り」で小骨を断ち切る
手開きにしても、身の中には細い小骨(血合い骨など)が残っています。これが口に当たるのが苦手な方は、皮を引いた後、皮目だった側(銀色の面)から、包丁で1〜2mm間隔の浅い切れ目を細かく入れる「骨切り」が非常に有効です。アジのたたきなどで行う手法と同じです。
これにより、身の中の小骨が断ち切られるため、食べた時の口当たりが格段に良くなります。
対策3:「酢締め」で骨を柔らかくする
前述の通りアニサキス対策にはなりませんが、小骨対策としては「酢締め」も有効です。三枚におろして皮を引いた身に軽く塩を振り、30分ほど置いて水分を出させます。その後、余分な塩を洗い流し、酢に10〜20分ほど漬け込みます。
酢の力(酸)で小骨が柔らかくなり、食べやすくなるだけでなく、身が白く締まってうま味も凝縮されます。
しょうが醤油や薬味(みょうが、ネギ、大葉)と合わせて
ウルメイワシの刺身は、脂が上品な分、薬味との相性が抜群です。おろし生姜や、細かく刻んだみょうが、ネギ、大葉などをたっぷり乗せて醤油で食べると、小骨も気になりにくくなり、さっぱりとしたうま味が口いっぱいに広がります。
塩焼きは不向き?干物がおすすめな理由

「ウルメイワシ 美味しくない」という感想を抱く最も一般的なケースが、マイワシと同じ感覚で「塩焼き」にしてしまった場合です。
なぜ塩焼きは不向きなのか
理由はシンプルで、ウルメイワシはマイワシに比べて圧倒的に脂質が少ないためです。脂が少ない魚をそのまま塩焼きにすると、加熱によって身の水分だけが急速に蒸発し、結果として身が硬く締まり、パサパサとした食感になりがちなのです。
一方、マイワシは(特に旬の時期は)脂の塊のような魚です。塩焼きにすると、その豊富な脂が身全体に回り、水分が抜けるのを防ぐため、ふっくらとジューシーに仕上がります。この「塩焼き=マイワシの美味しさ」というイメージでウルメイワシを食べると、「美味しくない」と感じてしまうのは無理もありません。
もちろん、旬のど真ん中(冬)で、丸々と太った特大のウルメイワシであれば、塩焼きにしても美味しく食べられることもあります。しかし、一般的に流通している多くのウルメイワシは、塩焼きには不向きな場合が多いと覚えておきましょう。
干物が最高とされる理由
では、なぜ塩焼きではパサつくウルメイワシが、「めざし」や「丸干し」といった干物では最高級品として扱われ、珍重されるのでしょうか。
それは、ウルメイワシの身質(低脂肪・高うま味)が、干物にすることで最大限に活かされるからです。
- うま味の凝縮: 脂が少ない反面、赤身のうま味成分(イノシン酸など)が豊富です。干すことで水分だけが抜け、このうま味成分が極限まで凝縮されます。
- 適度な脂肪分: 脂が多すぎるマイワシは、干物にするとその脂が酸化しやすく、「脂焼け(あぶらやけ)」と呼ばれる油臭さや胸焼けの原因になりやすいです。その点、ウルメイワシの適度な脂は酸化しにくく、焼いた時に上品な香ばしい風味となります。
- 内臓の風味: 前述の通り、無胃魚であるため内臓の苦みが少なく、臭みも出にくいです。干物にすることで内臓の水分も抜け、独特のほろ苦い風味が凝縮された身のうま味と絶妙なコントラストを生み出します。
つまり、ウルメイワシの美味しさを最も引き出す食べ方こそが、干物なのです。「塩焼きが美味しくない」のではなく、「塩焼きは得意分野ではなかった」というだけなのです。
煮付け・蒲焼・酢締めの万能レシピ
塩焼きは不向きなウルメイワシですが、鮮度抜群の刺身や干物以外にも、そのうま味を活かす調理法はたくさんあります。ポイントは「脂が少ない点を補う」こと。タレや油を加えたり、酸味でうま味を引き立てたりする料理と非常に相性が良いのが特徴です。
定番の煮付け(生姜煮・梅煮)
脂が少ないウルメイワシは、こってりとした煮汁で煮付けると味が染み込みやすく、さっぱりとしながらも食べ応えのある一品になります。鮮度が良ければ、頭と内臓を取るだけで丸ごと煮付けても美味です。
- 生姜煮: 醤油、酒、みりん、砂糖の基本的な煮汁に、たっぷりの千切り生姜を加えます。イワシ特有の臭みを消し、さっぱりとした風味に仕上がります。
- 梅煮: 暑い時期には、生姜の代わりに梅干しをちぎって入れます。梅干しのクエン酸が身を柔らかくし、酸味でよりさっぱりと食べられます。
調理のポイント: ウルメイワシは身が非常に柔らかく煮崩れしやすいです。鍋に重ならないように並べ、必ず落し蓋(キッチンペーパーでも可)をして、強めの中火で短時間(10~15分程度)で一気に煮上げてください。
ご飯が進む蒲焼
パサつきを抑え、コクを出すのに最適なのが蒲焼です。手開きにしたウルメイワシに片栗粉(または小麦粉)を薄くまぶし、多めの油を引いたフライパンで両面を香ばしく焼きます。その後、醤油・みりん・酒・砂糖を煮詰めた甘辛いタレを絡めます。粉をまぶすことで身の水分が逃げず、タレもよく絡みます。
揚げて補う「フライ」や「南蛮漬け」
脂が少ないなら、油で揚げて補うのも正解です。手開きにした身にパン粉をつけて「イワシフライ」にすれば、アジフライとは違った軽い食感で美味しく食べられます。
また、一口大に切って片栗粉をまぶして揚げたウルメイワシを、玉ねぎや人参、ピーマンなどの野菜と一緒に甘酢(三杯酢)に漬け込む「南蛮漬け」も絶品です。油で揚げることでパサつきを防ぎ、酢がうま味を引き立てます。
小骨対策にもなる酢締め

前述の通り、小骨対策としても有効な「酢締め」は、立派なメイン料理になります。三枚におろしたウルメイワシを塩で締め、その後、酢で洗うか漬け込みます。身が白く締まり、保存性も高まります。そのまま刺身のように食べたり、ネギや生姜と和えたり、寿司ネタにしたりと万能です。
お洒落な洋風アレンジ!ハーブパン粉焼き

「ウルメイワシは塩焼きだとパサつく」という弱点を完璧に克服し、その上品なうま味を最大限に引き出すのが、オリーブオイルを使った洋風のオーブン焼き(ハーブパン粉焼き)です。見た目も華やかなイタリアンレシピは、ウルメイワシの新たな魅力を発見させてくれます。
この調理法がウルメイワシに適している理由は、脂が少ない身をオリーブオイルがコーティングし、加熱による水分の蒸発を防ぎ、しっとりと仕上げてくれる点にあります。さらに、パン粉がサクサクとした楽しい食感を加え、ハーブやニンニクの香りが魚のうま味を引き立てます。
ウルメイワシのハーブパン粉焼き レシピのポイント
- ウルメイワシは頭と内臓を取り除き、丁寧に「手開き」にして小骨を取り除きます。
- 耐熱皿にオリーブオイルを薄く塗り、開いたウルメイワシを並べます。
- パン粉に、お好みのハーブ(オレガノ、タイム、ローズマリーなど)、粉チーズ(パルミジャーノなど)、すりおろしニンニク、塩、コショウを混ぜ合わせます。
- ウルメイワシの上に、混ぜ合わせたハーブパン粉をたっぷりと振りかけます。
- お写真のように、ミニトマト、薄切りのレモン、火を通したジャガイモなどを彩りよく配置します。
- 仕上げにオリーブオイルを全体に回しかけ、オーブントースターまたはオーブン(200℃程度)で、パン粉にこんがりと焼き色がつくまで(約10〜15分)焼けば完成です。
この調理法であれば、ウルメイワシのパサつきを一切感じさせず、むしろその繊細な身質がソースやオイルと絡み合い、非常に美味しく仕上がります。「ウルメイワシは美味しくない」のではなく、「調理法が合っていなかっただけ」ということが明確に分かる一品です。ホームパーティーなどのおもてなし料理としてもおすすめです。
内臓の処理方法と含まれる効能
ウルメイワシを刺身や煮付け、蒲焼などで調理する際は、鮮度が良いうちに内臓を処理することが不可欠です。前述の通り、ウルメイワシは鮮度落ちが非常に早く、内臓から傷みやすいため、臭みの原因になります。(干物にする場合は、内臓ごと加工されます)
簡単な内臓の処理(手開き)
ウルメイワシの処理は家庭でも簡単に行えます。
- まず、包丁の刃先や背を使って、尾から頭に向かって軽くこすり、ウロコを落とします。(ウルメイワシのウロコは薄く、手でも取れるほど剥がれやすいです)
- 胸ビレの後ろに包丁を斜めに入れ、頭を落とします。この時、包丁を腹側まで完全に切断せず、腹の皮一枚残す程度にします。
- そのまま包丁を置かず、頭をゆっくりと引っ張ると、内臓(ワタ)も一緒にきれいに抜き取ることができます。
- 腹の中を流水でよく洗い、残った内臓や血合い(中骨のところにある赤い部分)を指でしごき取ります。
- キッチンペーパーで水気をしっかり拭き取れば、下処理は完了です。
この後、前述した「手開き」や、包丁を使った「三枚おろし」に進んでいきます。
ウルメイワシに含まれる主な効能(栄養)
イワシ類は、その安価さとは裏腹に、栄養価が非常に高い「青魚の王様」として知られています。ウルメイワシにも、私たちの健康維持に役立つとされる成分が豊富に含まれています。
主な栄養素として、以下のようなものが報告されています。
- DHA(ドコサヘキサエン酸): 脳や神経組織の機能維持に関わるとされる不飽和脂肪酸です。
- EPA(エイコサペンタエン酸): 血液の流れをスムーズにし、中性脂肪値を下げる働きが期待される不飽和脂肪酸です。
- カルシウム: 骨や歯の形成に不可欠なミネラルです。特に干物(丸干し)は骨ごと食べられるため、効率よく摂取できます。
- ビタミンD: カルシウムの吸収を助けるビタミンです。
- ビタミンB群: エネルギー代謝を助けるビタミンB2や、貧血予防に関わるB12などが含まれています。
これらの栄養素(特にDHA・EPA)は、生活習慣病の予防に役立つとされており、厚生労働省のe-ヘルスネットなどでもその摂取が推奨されています。
「美味しくない」と敬遠してしまうのは、これらの貴重な栄養素を逃すことにもなり、非常にもったいないことなのです。
総評:「ウルメイワシは美味しくない」は調理次第
「ウルメイワシは美味しくない」という評価は、多くの場合、マイワシとの違いを理解せず、不向きな調理法(特に塩焼き)を選んでしまった結果の誤解です。ウルメイワシの本当の魅力は、その上品なうま味と、干物にした時の凝縮された味わいにあります。
この記事のポイントをまとめます。
- 「ウルメイワシは美味しくない」という印象は、旬の時期や調理法が合っていないことに起因する
- ウルメイワシはニシン目ウルメイワシ科の魚で、マイワシ(ニシン科)とは分類が異なる場合がある
- 獲れる地域は島根、高知、三重、長崎など西日本が中心
- ウルメイワシの旬は冬(10月~2月)で、上品な脂とうま味が特徴
- マイワシの旬は夏(6月~10月)で、圧倒的な脂の乗りが特徴
- マイワシとの違いは、ウルメイワシが「目が大きく細長い」「脂が少なくうま味が強い」点にある
- カタクチイワシとの違いは、ウルメイワシの方が大きく、主に干物や刺身で食べられる点(カタクチは煮干し)
- マイワシとどちらが美味しいかは好みによる(脂のマイワシ、うま味のウルメイワシ)
- ウルメイワシは胃袋を持たない「無胃魚」である
- 他に無胃魚はいるかという問いの答えは、サンマ、コイ、フグなど
- 朝獲れの刺身は格別だが、鮮度落ちが非常に早いため注意が必要
- 刺身の際はアニサキス対策として、新鮮なうちの内臓除去と目視確認が必須
- 酢締めや塩ではアニサキスは死なない
- 刺身の小骨は「手開き」や「骨切り」で処理すると食べやすくなる
- 脂が少ないため塩焼きには不向きで、パサつきやすい
- 干物(めざし)が最高とされる理由は、うま味が凝縮され、適度な脂が酸化しにくく、内臓の風味が良いため
- 煮付け、蒲焼、南蛮漬けなど、味や油を補うレシピとは相性が良い
- 内臓の処理は頭と一緒に抜き取り、効能としてはDHAやEPA、カルシウムが豊富
海の幸を安全に楽しむために ~アニサキス症の予防~の動画が参考になります。