スーパーの鮮魚コーナーで、他の魚が切り身2切れで500円や600円する中、驚くほど安く売られている「モウカザメ」のパックを見かけて、思わず足を止めたことはありませんか?「2切れで200円以下?なんでこんなに安いの?」と驚くと同時に、「サメって食べられるの?」「アンモニア臭がすごそう」「なんだか怖くてカゴに入れられない」と不安になり、結局いつもの鮭やブリを買ってしまった……そんな経験がある方は非常に多いはずです。
実際にスマホを取り出して検索窓に「モウカザメ」と打ち込むと、「まずい」「臭い」といったネガティブな単語がズラリと並びます。さらに検索結果を見ていくと、刺身や肝に関する安全性や、水銀のリスクについて書かれた記事も目に入り、「やっぱりやめておこう」と棚に戻してしまう気持ち、私自身も最初の頃はそうだったので痛いほどよく分かります。
しかし、はっきり申し上げます。その評判の多くは、正しい知識と下処理を知らないことによる「大きな誤解」です。実は、モウカザメは適切な選び方とほんの少しの調理前の工夫さえマスターすれば、鶏肉のようにヘルシーで、臭みもなく、子供たちが争奪戦を繰り広げるほどの美味しい食材に変わるのです。この真実を知らないままでいるのは、家計にとっても食卓のバリエーションにとっても本当にもったいないことなんです。
この記事で分かること
- モウカザメが臭いと言われるアンモニアの発生メカニズムと、科学的に臭いを消す方法
- 水銀や寄生虫といった、食べる前に知っておくべき安全面のリスクと正しい対処法
- まるで鶏肉のようなフワフワ食感を楽しめる、フライやムニエルなどの絶品調理法
- 安くて高タンパク、骨もない「コスパ最強食材」を食卓に取り入れるメリット
モウカザメはまずいし臭い?評判の正体

「サメを食べる」という文化に馴染みがない地域の方にとって、モウカザメは未知の食材であり、少し怖い存在かもしれません。なぜネット上ではこれほどまでに「まずい」「臭い」という声が上がるのでしょうか。ここでは、そのネガティブな評判の根本的な原因である「臭いのメカニズム」と、私たちが特に気になる安全性について、スーパーで売られている実態を交えて詳しく解説していきます。
アンモニア臭の原因と鮮度の見分け方

モウカザメが「臭い」と言われる最大の原因、それは間違いなく体内に含まれるアンモニアです。しかし、ここで誤解してはいけないのが、「生きている時から臭いわけではない」ということです。
サメやエイなどの軟骨魚類は、海水の中で脱水症状にならないよう、体内の浸透圧を調整するために「尿素」という物質を筋肉中に大量に蓄えています。この尿素自体は無臭なのですが、魚が死んで時間が経過し、鮮度が落ちてくると、微生物や酵素の働きによって尿素が分解され、あの特有の鼻につく「アンモニア」へと変化してしまうのです。
つまり、「モウカザメ=臭い」のではなく、「鮮度管理が悪いモウカザメ=臭い」というのが真実です。
獲れたてで適切に処理されたモウカザメは、驚くほど無臭です。スーパーで買い物をする際、「ハズレ」の個体を引かないためには、以下のポイントを必ずチェックしてください。
鮮度の良いモウカザメを見極める3つのポイント
- 色の鮮やかさ: 身が綺麗な薄いピンク色をしているものを選びましょう。鮮度が落ちると、茶色っぽく濁ったり、黄色みがかったりしてきます。
- ドリップの有無: パックの底に赤い汁(ドリップ)が溜まっていないか確認してください。ドリップが出ているものは時間が経っており、臭みの原因成分も溶け出しています。
- 表面の質感: 身に弾力があり、瑞々しいものを選びます。表面が乾燥してカピカピになっていたり、逆に白っぽくふやけているものは避けましょう。
もしパックを開けた瞬間に、鼻を突くような強烈な刺激臭がした場合は、残念ながら鮮度がかなり落ちている証拠です。しかし、ほんの少しの匂いであれば、後述する下処理で完全に消すことができるので安心してくださいね。
心配な水銀量や毒性に関する真実
サメを食べるにあたって、アンモニアと同じくらい心配されるのが「水銀」の問題ではないでしょうか。「サメは食物連鎖の頂点にいるから、体内に水銀が蓄積されているのでは?」という懸念は、非常にもっともな意見です。
実際、自然界に存在する水銀は、小さな魚から大きな魚へと食べられる過程で濃縮されていきます(生物濃縮)。厚生労働省も、キンメダイやメカジキ、クロマグロ、そして一部のサメ類などに関しては、メチル水銀の含有量が高くなる傾向があるとして、特に妊婦の方に対して摂取量の目安(注意喚起)を行っています。
しかし、これは「モウカザメには毒があるから食べてはいけない」という意味ではありません。あくまで、「毎日大量に食べ続けるといった偏った食事をしなければ、健康への悪影響は心配しなくて良い」というレベルの話です。私たちが普段、寿司ネタとして大好きなマグロや、煮付けにするキンメダイと同じように扱えば問題ありません。
妊婦の方の摂取目安について
厚生労働省の公表データによれば、バンドウノスなどの一部のサメ類は注意が必要な魚種リストに含まれていますが、一般的な摂取頻度であれば過度に恐れる必要はありません。これから出産を控えている方は、念のため以下の公的な情報を一度確認しておくと安心です。
(出典:厚生労働省『魚介類に含まれる水銀について』)
寄生虫のリスクと正しい加熱の重要性
海の魚を食べる上で、避けては通れないのが「アニサキス」などの寄生虫リスクです。サメに関しても、「サメ肌だから寄生虫が入らない」とか「アンモニア臭があるから寄生虫も死んでしまう」といった噂を耳にすることがありますが、これらは完全に迷信であり、科学的根拠のない間違いです。
モウカザメも他の魚と同様に、内臓や筋肉中にアニサキスが寄生している可能性はゼロではありません。特に、スーパーで売られているモウカザメの切り身のラベルをよく見てください。ほとんどの場合「加熱用」と書かれているはずです。
この「加熱用」という表示は、「鮮度が悪いから生で食べられない」という意味だけでなく、「寄生虫のリスクを考慮して、必ず火を通してください」という重要なメッセージでもあります。アニサキスは、60℃で1分間以上の加熱、またはマイナス20℃で24時間以上の冷凍で死滅します。
安全に食べるための鉄則
フライ、煮付け、ムニエルなど、中心部までしっかりと火を通す調理法であれば、寄生虫のリスクは物理的に完全に排除できます。「半生」や「レア」の状態は避け、白くなるまでしっかり加熱調理を行うことを心がけてください。そうすれば、何ら怖いことはありません。
刺身で食べる際の注意点と自己責任
宮城県の気仙沼市や栃木県などの一部地域では、モウカザメの水揚げが多く、新鮮な心臓を「モウカの星」と呼んで刺身で食べる食文化が根付いています。ごま油と塩で食べると、まるで牛のレバ刺しのような濃厚な味わいとコリコリした食感が楽しめ、非常に美味しい珍味として知られています。
しかし、これらの地域で食べられているのは、「刺身用」として漁港で厳格な鮮度管理が行われ、プロが適切に処理したものに限られます。
もしあなたが近所の一般的なスーパーで「加熱用」として売られているモウカザメを見つけて、「新鮮そうだから刺身で食べてみようかな」と考えたとしたら、それは絶対にやめてください。加熱用のパックを生で食べることは、寄生虫だけでなく、腸炎ビブリオなどの食中毒菌のリスクも跳ね上がります。
どうしても生で食べたい場合
モウカザメの刺身や「モウカの星」を安全に楽しみたい場合は、自己判断でスーパーの切り身を使うのではなく、信頼できる鮮魚店や、産地直送の通販サイトを利用しましょう。「生食用」「刺身用」と明確に表記された商品を購入することが、美味しい体験への唯一の近道です。
なぜスーパーでこれほど安いのか
モウカザメの最大の魅力の一つは、やはりその圧倒的なコストパフォーマンスです。特売日には100gあたり100円を切ることも珍しくなく、鶏胸肉と同じくらいの価格帯で並んでいることもあります。「安すぎるから、逆に何か裏があるんじゃないか?」「品質が悪い魚なんじゃないか?」と勘ぐってしまう方もいるかもしれません。
しかし、これには明確な理由があります。それは、「知名度の低さ」と「需要の限定性」です。
日本では「サメを食べる」という食習慣が、東北や北関東などの一部地域に限られています。そのため、全国的な需要はマグロやサーモン、ブリなどに比べて圧倒的に低くなります。また、サメ漁の主目的が高級食材である「フカヒレ」の採取にある場合、残った「身」の部分は副産物として扱われることが多く、大量に余剰となるケースがあります。
つまり、モウカザメが安いのは「まずいから」でも「品質が悪いから」でもなく、単に「みんながその美味しさを知らず、買おうとしないから値段が上がらない」というだけなのです。私たち消費者にとっては、栄養満点の食材を安く手に入れられる、まさに「穴場」のような存在と言えるでしょう。
モウカザメがまずい・臭い評価を覆す料理法

ここからは、実際にモウカザメを買ってきた際、どのように調理すれば最高に美味しくなるのか、具体的なテクニックをご紹介します。「まずい」と感じてしまう最大の要因は、調理前の「ひと手間」が足りていないことがほとんどです。この工程さえ踏めば、モウカザメは「海の鶏肉」と呼ばれるにふさわしいご馳走へと進化します。
牛乳や水洗いで臭みを消す下処理
買ってきたモウカザメのパックを開けたとき、もし少しでもアンモニア臭を感じたとしても、決して諦めないでください。科学的なアプローチで、その臭いを驚くほどきれいに消すことができます。私が最もおすすめする方法は、「牛乳」を使った漬け込みです。
牛乳に含まれるコロイド粒子やタンパク質(カゼイン)には、アンモニアなどの臭い成分を吸着する性質があります。これを利用して、調理前に臭いを牛乳に移して捨ててしまうのです。
魔法の臭み消し手順
- 洗う: まず、切り身を流水でさっと洗い、表面のぬめりや汚れを落とします。
- 拭く: キッチンペーパーで、表面の水分を一度しっかり拭き取ります。
- 漬ける: ボウルやジップロックに切り身を入れ、ひたひたになるまで牛乳を注ぎます。そのまま冷蔵庫で20分〜30分ほど放置します。
- 拭き取る: 牛乳を捨て(臭いが移っているので料理には使いません)、再度キッチンペーパーで切り身の水分を丁寧に、完全に拭き取ります。
もし牛乳が冷蔵庫にない場合は、「酒」でも代用可能です。切り身に塩と酒を振って10分〜15分置き、出てきた水分をキッチンペーパーで拭き取るだけでも、臭みは大幅に軽減されます。最も重要なのは、最後に「臭いを含んだ水分をしっかり拭き取る」という工程です。これさえ徹底すれば、仕上がりの味が劇的に変わります。
まるで鶏肉のような食感と栄養価
下処理を終えたモウカザメは、淡白で非常にクセのない味わいになります。そして特筆すべきは、その独特の食感です。一般的な魚は加熱しすぎると身が硬く締まってパサパサになりがちですが、モウカザメは加熱しても水分を保ちやすく、「ふんわり」「しっとり」とした肉質をキープします。
その食感は、魚というよりも「上質な鶏のササミ」や「柔らかい鶏胸肉」に非常に近いです。魚臭さがなく、肉のような満足感があるため、魚が苦手な人でも気づかずに食べてしまうほどです。
| 特徴 | モウカザメが現代の食卓に最適な理由 |
|---|---|
| 骨の有無 | 基本的に大きな骨はなく、あっても柔らかい軟骨のみ。包丁で簡単に取り除けるため、小さなお子様やお年寄りがいるご家庭でも、喉に骨を詰まらせる心配がなく安心です。 |
| 栄養価 | 高タンパク・低脂質・低カロリーの三拍子が揃っています。ダイエット中の方や、筋トレをしていてタンパク質を安く摂取したい方にとっては、鶏肉と並ぶ最強の食材です。 |
| 調理性 | 身がしっかりしていて煮崩れしにくく、加熱してもフワフワ感が持続するため、料理初心者でも失敗しにくい扱いやすい魚です。 |
子供も喜ぶサクサクのフライや唐揚げ
モウカザメのポテンシャルが最も発揮される調理法、それは間違いなく「揚げ物」です。下味をつけて衣をまとわせ、高温の油で揚げることで、内部の水分と旨味をギュッと閉じ込め、外はカリカリ・サクサク、中はジュワッとジューシーな最高の仕上がりになります。
特におすすめなのが「モウカザメのフライ」や「唐揚げ」です。作り方は鶏肉の唐揚げや白身魚のフライと全く同じです。醤油、酒、生姜、ニンニクで下味をつければ、ご飯が止まらないガッツリ系のおかずになります。
我が家でもよく作りますが、魚特有の生臭さが全くなく、食感も柔らかいため、魚嫌いの子供たちも「これ、お肉?ナゲットみたいで美味しい!」と大喜びで完食してくれます。タルタルソースやオーロラソースとの相性も抜群なので、お弁当のおかずとしても非常に優秀です。
ご飯に合う煮付けやムニエルのコツ

揚げ物以外でも、モウカザメはあらゆる料理に対応できる万能選手です。和食派の方には「煮付け」がおすすめです。カレイや金目鯛の煮付けと同じ要領で、醤油、酒、みりん、砂糖で甘辛く煮付けます。
この時のコツは、「生姜(しょうが)」を少し多めに入れることです。生姜の効果で残った微量な臭みも完全にカバーでき、爽やかな風味が食欲をそそります。身が崩れにくいので、見た目も綺麗に仕上がりますよ。
また、洋風に楽しみたいなら「ムニエル」や「ガーリックステーキ」が絶品です。塩コショウをしてから薄力粉を薄くまぶし、多めのバターやオリーブオイルで表面がカリッとなるまで焼き上げます。仕上げにバター醤油を回しかければ、淡白な身に油脂のコクと香ばしさが加わり、レストランで食べるようなご馳走感が出ます。冷めても硬くなりにくいので、作り置きにも適しています。
まとめ:モウカザメはまずいし臭いという誤解を解消
ここまで読んでいただければ、検索画面に出てくる「モウカザメ まずい 臭い」という言葉が、実は下処理不足や、たまたま鮮度の悪いものに当たってしまった際の一面的な感想であることが、よくお分かりいただけたかと思います。
鮮度の良いピンク色のものを選び、牛乳や酒で適切な下処理を行えば、モウカザメは「安くて、栄養満点で、骨がなくて食べやすい」という、現代の家庭料理に求められる要素をすべて兼ね備えた最強のコスパ食材です。今まで売り場で「安すぎて怪しい」と素通りしていたそのパック、次はぜひ勇気を出して手に取ってみてください。フライパンでこんがり焼いて一口食べた瞬間、「なんでもっと早く買わなかったんだろう!」と、新しい美味しさとの出会いに感動するはずですよ。